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祭りの日は業火の夜2

 セナ村での摩鬼との戦闘を終えたレザラ達は宿に戻っていた。


 トーダはというと、宿の女将に水浴びした髪をごしごし拭かれ、思いつめた顔をしながら部屋に顔を出した。


「大丈夫ですか」と気遣わし気に寄ってきたソスに、トーダは鬱々と頷く。


「巫女殿、怪我はないか?」


「はい。先ほどはありがとうございました」


「ああ、あの銃のことか。悪いのは巫女殿ではない。気にするな」


「ああどうも、すみませんでしたね。でも実践なくして上手くはならないだろうが」

話を聞いていたレザラが鼻で笑う。


「お兄さん、普通は実戦の前に練習するもんなんだよ」


「練習しなくても、何とかなるものさ」


「呆れたね。これだから天才って奴は嫌いだ」


窓際で銃器の点検をしているレザラと、茶を飲んでまったりしているタポラが言い合いをはじめた。


それを無視して、深刻な顔をしたトーダは慎重にソスに問う。


「巫女殿、クーラと名乗るグラルの女が、オルレイアに危機が迫っていると暗示させるようなことを申しておったが、心当たりがあるのだろうか?」


「前巫女時代は碧双界の摩瘴気問題が深刻化し、多くのグラルが任務のために死んだそうです。最近は、グラルが酷使されることも減りましたけど、グラルの人間への不信感は拭えていないみたいで、思想も過激化しているのだと、昔クーラが教えてくれました。もしかしたら―――」


「警告として、オルレイアに何かしようとしているかもしれないと?」


「その可能性もあるかと思います」


「もしそれが本当なら、何をしようとするんだろうな」


人間を殺してでも、摩鬼を操ってセナ村に襲ってきたのを目の当たりにしたところだ。レザラの声音は一段と低くなる。


「はっきりとしたことは言えない・・・・・だが、グラルが狙うだろう場所ならわかる」


「へえ、さすが元宰相様だな」


「狙いはおそらくロニエという振興の工業都市だろう。グラルは巫女を拉致する命令を下したクラビスを許すはずがない。クラビスを叩かない限り、巫女を奪還しても、いつまた奪われるか心配せねばならん。だが、クラビスが業務を行っている首都ハバルは警護が厳重で、いくらグラルでも行動を起こすには不向きな都市だ。だが、最近クラビスがよく視察に訪れている街がある。それがロニエだ。ロニエなら、労働者の出入りも多く、グラルも潜入しやすい。クラビスを狙うなら、間違いなくここだ。加えて、クーラはクラビス個人だけではなく、もっと大きな災厄を予想するような言い回しをした。オルレイアで摩瘴気濃度が一番高い工業都市ロニエは、グラルにしてみれば許し難い都市だろう」


それにはタポラも同感だったのか、鹿爪らしい顔をする。


「同感ですねぇ。オルレイアに潜伏させている仲間から、ロニエに隣接するテル・カナシュが最近動きを活発化させていると連絡が入り、開戦が近いのではと言ってきました。戦に紛れてなら、少数民族であるグラルも悪巧みしやすいでしょう」


寒気がしてソスは無意識に腕を摩る。

グラルがとんでもないことをしようとしているのではないかと、漸く実感が出て来たのだ。


「トーダはロニエに行くんだろう?王殺しの罪を着せられて一度逃げた後に、わざわざ大樹公の所から戻ってきたくらいだ。気にならないはずがない。今は俺達と行動しているが、本来の目的は違うんだろう。例えば狙いがクラビスの首だったりしてな」


「貴君はどう思っているか知らぬが、クラビスへの仇討が我の狙いではない」


銃器を碧筒に入れて向きなおったレザラを、トーダは何とも言えぬ顔で見返す。


「クラビスの命など、正直どうでも良いのだ。強いて言えば、やはりこの国が心配だから戻ってきたのだろう。我はロニエに向かう。別れねばならない時が来たようだ」


ソスは顔色を変え、タポラとレザラは予想していたようで頷く。


「貴君はどうする?」


「俺?俺は・・・・・」


暫く腕を組んで熟考していたレザラは、ちらっとソスを見る。

例の約束を思い出してのものだと、ソスはすぐに気が付いた。


「私もロニエへ同行してもよろしいでしょうか」


レザラが答える前にソスが言い放つ。


問題発言に、タポラを含む皆が愕然とする。


「お前、わかってるのか。ロニエは戦地になるかもしれないんだぞ。グラルにも狙われるだろうし、危険だ」


「グラルがしようとしていることは、私と無関係ではないはずです。それに、本当はレザラさんもロニエに行きたいんですよね。だって、ディーブス准将はクラビス幕化の将です。その戦に同行する可能性が高いと考えたのではありませんか?」


「ロニエに行くとは言っていないだろう?」


「行きたいと顔に書いてあります」


茶を噴き出したタポラが、恨みがまし気にレザラを見る。

「どうしてくれるんだい」と、タポラの目は怒っており、レザラは頬を引きつらせる。


「まさか俺が理由なのか?」


「ち、違いますよ。ただ、考える時間がほしい・・・ではなくて、グラルのことが気になるんです」


「はああ~」とタポラが盛大な溜息をついて天井を仰ぐ。


「これだから世間知らずの巫女様は」とでも言いたそうだが、口には出さない理性はあるようだ。


 出会ってまだ短いが、この少女は言い出したらきかない頑固者だと薄々気づいている。


 トーダは困った顔で首を傾げ、レザラは眉間を寄せて口を引き結び、タポラは枕に突っ伏した。

 


 翌朝、村を救ったレザラ達のために、村人はラピン二頭と荷馬車を提供してくれた。


その荷馬車に揺られながら、結局四人は北のロニエに向かうことになった。


四人とも、目的は異なる。


トーダは言うまでもなく、オルレイアに降りかかるだろう災厄を防ぐため。


レザラは久しぶりに再会した幼馴染の監視、兼ソスの護衛のため。


ソスはグラルの巫女という役目を捨てるか否かの決断をするため。


タポラはソスを大樹公の下へに連れて行くまでの護衛をするため。


 四人とも目的は違うが、ロニエに着いてしまえば、最終的に戦の火の粉から、この世間知らずの巫女を守らなければならないという目的にすり替わるだろうことは、当人を除いて予想している。


口先だけとはいえ「グラルのことが気になる」とソスが言って聞かない。


少女を無視できないタポラとレザラは、トーダと同じ目的に付き合わされるだろうことは目に見えていた。


トーダはまだしもレザラとタポラにしてみれば、頭痛の種以外の何物でもない。


何はともあれ『大変なことになりそうだ』。これが大人三人の共通する認識だった。

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