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生き残りは罪悪か

 

 

嗚。


 唇から零れたのは、末期の息。


嗚。


 ぜいと喘ぐ喉は、その吐息すら明瞭ではない。

 罅割れた口に、滲む鉄の味が甘かった。


嗚。


 茜に燃える空。

 錦に映える雲。

 その天蓋を堕とすように突き立つ、炙られ熔け歪んだ鉄。


 抉られ隆起した灰褐色の大地から生える鉄の群れは、餓え倒れ屍を晒した太古の竜の骨のようだった。 


嗚。


 生きている。

 右も左も、土か鉄か石くれか肉の破片。

 怨嗟の音も聞こえない荒野。


 なのに、この体は生きているのか。

 

 ただ横たわっていると、四肢の感覚すらおぼつかない。

 

 いや。


 もう、半分千切れているのかもしれない。


 はらわたと骨と肉を撒き散らして、痛みも感じない恍惚の中に、いるのかもしれない。


嗚。


 ぜいと鳴る喉は、無駄に息を継ぐ。


 腐肉を漁る獣も、臓物をつつく禽も、とうのむかしに死に絶えた。

 鉄の塊を飛ばして、鉛の玉を玩具にして悦にいっていた人間たちも、ここにはいない。


 細胞という細胞は、見渡す限り、動きを止めた。

 ただひとつの肉塊を除いて。


嗚。


 生きろと言った。


 死ぬな、生き延びろ。

 どんなことがあっても。

 生きていれば、その先はきっとある。


嗚。

 

 あの紅い空のように現実味がなくて、この眼球を撫でる風のように無意味な言葉。


嗚。


 鼓動が腐り落ちる最期の瞬間まで、喉は動きつづける。

 望むと望まざるとに関わらず。


嗚。


 大地に還る事も出来ず。


嗚。

 何かの命を繋ぐ糧にもなれず。


嗚。


 ただ風に晒されて、塵になるのが生きるということなのか。


嗚。


 生きようと思った。


 生きつづけようと思った。


嗚。


 その慾に対する、これが報い。


嗚。


 枯れた筈の涙が、焼け爛れた眦から、こめかみに向かって流れた。



「嗚」は、「嗚呼」。

ああ、という溜息。


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