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握りつぶした昔の写真
「全て準備完了致しました」
無感動な声が、踵を打ち鳴らし、ばね仕掛けのような仕草で敬礼する。
「御苦労。さがってよい」
「は」
今一度敬礼して出て行くのを、窓ガラスに映して眺めた。
背筋を伸ばし手足を伸ばして歩き去る姿は、いつみても滑稽だ。
あんなものが大挙して歩くのを、恰好がいいだとかいう馬鹿者の気が知れない。
そう思って、口を曲げた。
馬鹿者だから、扱い易い。
現にそうやってここまできたのだ。
窓際を離れ、錦張りのカウチに腰を下ろす。
自然、正面の壁に翻る巨大な旗が目に入った。
複雑な意匠の、三つ頭の竜。
それが自分の権力を示す、最大にして唯一の容だった。
がむしゃらにやった。
踏みつけてきたもの、切り捨ててきたものはどれほどだったか、いまとなっては思い出せもしない。
はらはらと掌から零れるものを、すくいとることすらできなかった。
一体、何を手にいれたのだろう。
一体、なにを置いてきたのだろう。
瞑目して、大きく息を吸う。
もう、どうでもよかった。