朽ち果てた思い出の場所
抜けるような空、というのは、こういうのを言うのかもしれない。
そう思って、なぜか口が笑いの形に歪んだ。
そういえば、たくさん人が死ぬとき、どうしてか空はよく晴れている。
大勢が死んでから、空は泣くのだ。
おいおいと声を上げて、大粒の黒い涙をこぼして。
その雨ですらも、人を殺すのだけれど。
生まれてから幾度も、その光景を見た。
晴れあがった空。
一点の染みが産み落とす、死神の卵。
青を裂く閃光と、視界を覆い尽くす雲。
爆風と火焔。
熔け爛れた皮膚を引きずり歩く、亡者の群れ。
そのうえに降り続く、黒い雨。
さやと風は渡り、あたりを撫でる。
剥き出しの骨が、膿んだ肉が、甘い慰撫にほうと喘いだ。
ざわざわと枝が謳う。
水気のない地面から不恰好に立った幹は、煤にまみれて炭化している。
あてずっぽうに伸びた枝は、大きく広がっていたかつての名残だった。
大きな樹だった。
あたりいちめん広い湖で、柔らかい草が茂り、鬱蒼とした森へと続く。
その境目に立つ、大きな樹だった。
赤茶ににじむ砂にまかれ、風に晒された木は、耳を押し当てても最早水を通す音を立てない。
その根元に寝そべっても、衣擦れのような葉音は聞こえない。
ほう、と体が息をつく。
空はどこまでも青く、広がっていた。