第八話:ショパンのピアノと理解不能
ショパンの曲に合わせて、シャーペンを動かす。
ついに明日が、決戦の日――
*
「オッハー」
坂下に少し古めの挨拶を投げられ、テスト一日目が幕を開けた。
坂下はなんだか嬉しそうだ。
テストなのに?
「なんか嬉しそうだな」
「あ、わかる?昨日ドラクエクリアしちゃってさ!」
…勉強しろよ!
「…テスト今日だぞ?」
「ドラクエの方が大事だ」
きっぱり。
頭に激痛が…
「…留年したりして…」「大丈夫、大丈夫。金を積めばなんとかなるさ」
「裏口かよ!!」
うっかり本気でつっこんでしまった。
「冗談だってーそんな金あるわけないだろー?」
「お前ならホントにやりそうで…」
いかん、いかん。
テストが始まる前に暗記でもするか。
ガラッ
ノートを取り出したところでドアが開いた。
「テストが始まりますので席に着いて下さいねー」
理科担当・翠川の間伸びした声が教室内に響く。
「教科書やノートは見ちゃダメですよーもっともこれから一ヶ月程、覗き魔や、カンニング魔という愛称になりたかったら別ですけどねー」
覗き魔にカンニング魔…赤点取るより嫌かもしれない。
くそう、坂下!お前と話してたせいだぞ!!
仕方なくノートをしまい、坂下を軽く睨んだら、
満面の笑顔とピースで返された。
おのれ、企んだな。
*
おおっ!
テストが普段より簡単なもののように感じた。ショパンの曲に乗って、シャーペンから答えがほとばしる。
曲は今、ポロネーズ
「軍隊」
から
「華麗なる大円舞曲」
へ。
ふと、前の席の秋庭さんの事を思った。
彼女もテストを解きながら、このピアノの音を聴いているのだろうか
もしそうなのだとしたら
それはとても素敵な、音色だな
僕らの耳にだけ響く、ピアノの音色――
やがて最後の問題に辿りついた。
ピアノは、終曲、
「別れの曲」へ…………
*
「終わった〜!」
大きく伸びをして、深呼吸。
こうして、僕の勇気を賭けた、一週間のテストが終わった。
「今回の数学はものたりなかったなあ」
大河内がぼやく。
「嫌味だぞー」
「ふふん」
「ムッ」
このぶんだと、大河内はおそらく本当にものたりなかったのだろう。
僕には充分過ぎるほどものたりてたぞ。
「坂下は?」
大河内が僕の反撃を受ける前に、話を反らした。
坂下は机につっぷしたまま、動かない。
「おーい?」
「追試では満点を狙います」
最初から追試ねらいか!!
でも、とりあえず、テストは終わったわけだ。
そして、結果が出て、
30位以内なら…
秋庭さんに……
「蓮ー!どうだった?」
遙の声だ。
「…三話ぶりの登場?」
「は?何それ」
「いやいや、こっちの話」
「それよりテストどうだった?」
「まあまあ…かな」
実はちょっと自信あり。
初めての経験だ。
「ええっ!?」
遙が驚く。
「何でそんなに驚くんだよ」
失礼だぞ。
「いや…だって、長年幼馴染みやってるけど、いっつもだめだーってこう、くたくたになってるじゃん」
「そうだっけ?」
「そうよ!小学校からずーっとそうだったんだから!!」
「よく覚えてるなあ…他人のことなのに」
「えっ」
何故か遙は慌てた。
「いや、だって、その、ねっ?」
耳まで真っ赤になっている。
夕陽のせいだな。
「顔真っ赤ー」
すると、遙はますます真っ赤になって、
「ばかっ!!」
僕の脛を蹴っ飛ばしてきた。
「痛てっ!!おのれ、べ、弁慶の泣き所を…」
「うるさいばーかっ!」
そんなに気にさわる事、言ったっけ?
まったく、女子の気持ちは理解不能だ。