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第七話:からっぽの少年とその心

「まずは勉強法だな」

大河内が仕切る。

「坂下は何かある?」

「ベンキョウって何?ドラクエの呪文?」

坂下は完璧な現実逃避体制に入っていた。

「おーい、坂下ー脳味噌入ってる?」

尚も諦めない大河内に、

「かに味噌入ってます」

だめだ…

「しょうがないな、僕のも教えるけど…んーと、よし」


「秋庭さんにでも訊いてみようか」


何ィッ!?

いや、嬉しいけど、

「秋庭さんは頭良いし、適役だよ」

「いや、そのほら、でも」

「おーい秋庭さーん」

「大河内ぃぃい」


「はい?」


透明な声が帰ってくる。

秋庭さんの声だ。

「勉強法とか知らない?」

大河内がさくっと話を進める。

「勉強法ですか…」

「とにかく、ノートに書くとか、あと、クラシック等を聞きながらやるのも良いかもしれません」

「クラシック?」

これは初耳だ。

思わず、僕からも声が出る。

「あ、はい。周りの音が気にならなくて良いですよ」

「へぇ…やってみるよ」

家でクラシックのCDを見た記憶は無かったけれど。

「良かったらお貸ししましょうか?」

それに気付いているのか、いないのか、秋庭さんがいった。

ん?んん?

ええっ

「良いの!?」

「はい。たくさんありますので」

「じゃあ、借りようかな…」

「わかりました。明日持って来ますね」


やった!

これはすごいぞ。

大進展だ。

まあ、全ては二週間後のテストにかかっている訳だが。

「良かったな」

大河内が言った。

「ん。サンキュ」

まさか大河内に気づかれたか…?

いやいや、まさか、ね。

「入試の時みたくやれば楽勝だよ。中学の先生、ビックリしてただろ?」

「そんなこともあったな…」

坂下と先生にこの学校を受ける、と言った時。

飲んでいたコーヒーを吹き出された。

受かったと言ったらもっと仰天された。


でも、絶対に入る理由があったから。中一の四月。

僕らは確かにそれを手に入れた。

だから、絶対に手放す訳にはいかなかったのだ。



からっぽの少年と、

数学を何より愛する少年と、

努めて明るく振る舞おうとした少年がいました。

彼等は皆、一つ大事な物が欠けていました。


からっぽの少年はそれが何かわかりませんでした。


数学の少年はわかっていたのに、数学以上のものを手に入れることができませんでした。


明るい子であろうとした少年は、ぼんやりと気付いてはいたものの、かりそめのものしか作れませんでした。


そして彼等は、出会ったのです。

そして、気付きました。


ああ、これか――…


少年達はついに欠けていたものを手に入れることが出来たのです。

それは――…



さあ、勉強…

耳につけたCDプレーヤーから心地良い音楽が流れ込む。

秋庭さんに借りたクラシックのCDだ。

確かにテレビの音等がまったく気にならないし、良いかもしれない。

何より、秋庭さんのCDだし。

それに、ショパンが気に入った。

僕に欠けていたものを手に入れた中一。

そして、今が高一。

秋庭さんは、


もしかしたら初恋?


昔はそんなもの、全然知らなかったのに。


勉強をする手に熱がこもる


勉強をすればするほど、君に近づく気がして


中身のない心が動く


君の存在が僕の心に中身をくれる


もしかしてそれは、



僕に芽生えた恋心?

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