第四話:きっかけとクイーン
なんで秋庭さんといると嬉しいんだろう。
どうして秋庭さんのことを考えると楽しいんだろう。
…ああ、そうか。
僕は唐突に納得する。
『恋』ってやつだ。
「って、ぇええッ!?」
「うわっビビった。いきなり大声出すなよな」
トランプ中にいきなり大声を出した僕に驚いた坂下にこずかれる。
いやいやいや。
違う違う。
そうじゃなくて…
…なんだ?
僕は秋庭さんについて何も知らなさすぎる。もっとも、今までろくに話した事すら無かったのだけど。何とか一回、話をしてみよう…
「おーい、早くトランプ出せ」
「ハイハイ」
「何だその気の無い返事は!トランプは真剣勝負なんだぞ!殺らなきゃ殺られるんだ!!」
「トランプで死んでたまるか!」
「まあまあ、じゃあ暇つぶしにトランプ二枚の合同を証明してみない?」
大河内の意見に、
『それは絶対にやらん』
珍しく僕と坂下の声がハモった。
*
次の休み時間。
秋庭さん達の話声が聞こえてきた。「何かCDとか買った?」
「ずっと前ですけど…」
と、秋庭さん。
「へえ、何買ったの?好きな歌手とかいる?」
これは遙。
「えーとクイーンのアルバムを…好きな歌手はクイーンですね。あと、カーペンターズとか」
むむっメモメモ。
しかし渋いな、秋庭さん。
僕は行動に出ることにした。
昨日持って帰ってしまった遙の教科書を手に持つ。
名付けて、『教科書返すフリして、話のきっかけ作戦』
まったく、我ながら姑息な手段。
「遙ー」
僕は遙を呼ぶ。
「教科書」
僕は遙に教科書を返した。
「ああっ!無いと思ったらやっぱりアンタだったのね!!」
「授業終わったらすぐ返しなさいよ、まったく!」
悪いな、遙…。
今はお前と話している暇はない…。
「あっ、上城君は歌手、誰が好きですか?」
キタ―――!!!
やった―――!!!
僕は努めて平静に答える。「あんま好きな歌手とかいないけど…強いていえばクイーン」
遙がはあ?という顔をしたのは無視。
「クイーン良いですよね!曲は何が好きですか?」
よしっ!秋庭さんがのってきた。
えーと、クイーンの曲は…
「えーと、I was born to love you とか」
「良い曲ですよね」
秋庭さんが微笑む。
100万ドルの笑顔!
と、幸せもつかの間、誰かにガシィッと首を掴まれた。
「上城くぅ〜ん、ちょっと良いかしらぁ〜?」
坂下だ。
「だからやめろってその裏ゴ…」
ぐふっ
エを言う前に坂下にヘッドロックをかけられ、教室の隅に引きずられる。
く…苦しい。
「さあて、上城蓮。女子達と何を話していたのかなぁ?」
「まったくだよ。フェルマーの定理はワイルズが証明出来たけれど、君が女子と話すことについては証明出来そうにないね。」
「ゲホッ。好きな歌手の話とか」
「ナニィ!俺たちも呼べよ!!」
坂下がもう一度ヘッドロックをかける。
「ぬけがけか?抜け駆けなのか??彼女いない歴16年の俺たちをさしおいてそんなことをする奴だったのかお前は――!」知るかそんな事――!
しかし、首を絞められているので、声が出ない。
「まあ、僕は彼女いない歴5ヵ月だけどね」
大河内がゆうゆうと答える。
大河内は実は結構モテる。
口を開いて数学の話をしなければ。
「男の敵―!!!」
坂下が騒ぐ。
結局、僕は坂下達を連れて秋庭さん達の所へ戻る羽目になってしまった。
でも、もう一度話せるからいいか…
「どーもー!坂下でーす!!」
「大河内でーす」
漫才コンビかお前らは!!
秋庭さん達、ちょっと引いてるぞ。
「コラ、お前もやれ」
「はいっ!?何で!」
「いいからやれ!俺たちだけやったらバカみたいだろ!」
充分お前はバカだよ!
ええい、もうヤケだ!
「…上城でーす」
坂下、大河内、遙、それにそこにいた女子達に爆笑された。
「うわっ、こいつマジでやっちまったよ!うわっ、うわ〜!!」
「うるせー!」
見れば秋庭さんも笑っている。
それを見ると、ま、いいか…と思った。
ホントに秋庭さんは不思議な人だ。