エピローグ:告白と掃除当番
賑やかな生徒の声が、窓の向こう側から、そことは対照的に静かな外まで響いてくる。
さくさくと、絨毯のように道に敷き詰められた落ち葉を踏み鳴らしながら、僕は裏庭に向かって歩く。
長かったな。
たくさん戸惑った。迷った。悩んだ。
誰かを好きになった事なんか今までなかったから。
それでも、やっとここまで来れた。
今僕が歩いている落ち葉の道の中に、あの日――最初に秋庭さんに告白した日に、樹にくっついていた葉っぱも混じっているんだろうか。
もしそうなら、少しは成長したってことかな。
そうであるならいい。
秋庭さんは、彼女らしく時間通りにそこで待っていた。
突然呼び出したせいか、少々戸惑ったような表情をしている。
「あ、上城くん」
「もう告白はしたんですけど、これだけは言っておきたくて」
とても謙虚な彼女を不安にさせないために、伝えなきゃいけないことがある。
いつの間に彼女は、僕の中でこんなにも大事な存在になったのだろう。
半年前から、僕は秋庭さんのことをもうずっと、どうしようもなく――。
「好きです」
最初はちょっととっつきにくいかなあ、と思ってたけど、実は笑顔がすごく素敵で。
とても綺麗な名前をしていて。
曲の趣味はちょっと渋い。
お兄さんはとても怖いけど、悪い人ではなくて。
秋庭さんの一挙一動に、何もなかったはずの僕の心は大きく揺り動かされる。
ずっと溜めてきたその二文字を告げた瞬間、秋庭さんは一瞬、大きく目を見張った。
確認するように僕の目をじっと見て、ほんの少しだけ、泣きそうな表情になって――
秋庭さんは、微笑った。
僕の恋した、彼女の笑顔そのままに。
「本当はその台詞、私が言おうと思ってたんですよ」
くすくすと秋庭さんは笑う。
「先に言われてしまいました」
今、なんて?
秋庭さんも言おうとしてたって――。
相手が、自分と同じことを考えていた。
それは偶然起こったときでさえ、とても嬉しいことなのに、その考え事が、まさか揃いも揃って相手に伝える言葉なんて。
それがわかっただけで、自然と頬が緩む。
これ以上に嬉しい事は、多分この先そうそうない。
「あ、そういえば今日掃除当番でした」
「え」
掃除当番!? またか! またなのか!
僕の一世一代の勇気をかけた日は、常に秋庭さんの掃除当番と重なるらしい。
頼むよ神様、空気、読んで……。
「……じゃあ、また、後で……」
「いいです」
え? 今度は、僕が首を傾げる番だった。
「一度さぼってみたかったんです」
秋庭さんはいたずらっぽくそう言った。
普通の適度に不真面目な生徒にとってはなんでもないその行為が、彼女にとっては憧れになってしまうところが、いかにも秋庭さんらしい。
「……上城くん、私とつきあってくれますか?」
ああ、ほら。やっぱり秋庭さんは、僕の心を弾ませるのが上手いんだ。
「喜んで」
真面目な彼女の、最初の掃除さぼりに付き合おう。
ようやく想いを伝えた達成感にこみ上げたため息は、ぐっと堪えて吐かずにおいた。
ほんの少しでも、この幸せを逃さないように。
彼女の名前と同じ、紅葉の舞い散る秋の庭。
風はそろそろ冷たくなってくる頃合だけれど、どちらからともなく繋いだ掌は暖かい。熱い。
そうして。僕らは一緒に歩いていく。