第三十話:時計の針と自分の気持ち
秋庭さん視点です。
私は、手に持っている文庫本のページに目を落とす。
けれど、ただ無意識に印刷されている文字列を追うだけで、内容がぜんぜん頭に入ってこない。
「あ……」
しまった、また読んでいるところがわからなくなった。
はあ、とため息をついて、私はページを戻した。さっきからその繰り返しで、まったくページは進んでいない。
しかたなく本を読むのをあきらめて、やることのない私は机に突っ伏した。
――『放課後、裏庭に来てください』
なんでこんなに、この言葉が気になるんだろう。
朝、上城君にそう言われてから、頭にのこったまま、離れない。本を読んだら紛れるかと思ったけど、それも無理だった。
上城君が言ったから?
上城君の言葉は、不思議。私と同じで喋るのが上手い方じゃないんだけど、なんだか、すごくあったかい。どうしてだか、とても安心する。
放課後、か。
いつもあっという間に過ぎていくと思っていた時計の針は、今日に限ってすごくゆっくりで。
なんでそういうことを朝に言うんだろう。気になって気になって仕方ない。でも、その場で言わずにわざわざ呼び出すんだから、きっとすごく重要なことなんだと思う。
告白……はこの前されたよね。じゃあ、今度はなんなんだろう。
もしかして。
最悪の予感が身をよぎる。
私のこと、嫌いになったとか?
それならありえるかもしれない。だって、いつも不安だったから。私なんかでいいの? って。
もしそうだったらどうしよう。私はどうしたらいいんだろう。上城君に嫌われるのだけは……。
突っ伏した身を少し起こして、教室の中にいる上城君を探した。いつものように、坂下君や大河内君とふざけあっている。
そういえば、前にもこんなことがあったな。
私が教室で本を読んでいたら、なんだか楽しそうな声がして、そっちに目を向けたら、上城君がいた。
確か、あの時は新学期が始まったばかりで、まだ上城君の名前も知らないときだった。
けれど今、窓の外には、桜の花びらの代わりに、落ち葉が散っている。
もう、秋なんだ――。
今の状況は、季節が違うだけであの時とほとんど同じ。同じ、はずだけど……。
なんでだろう。あの時と比べ物にならないくらい、上城君の存在が、私の中で大きくなってる。
最初は、他の人より話しやすい友達だった。次は、自分から話したいと思う人だった。でも、今は? 今は……。
思えば、私から自分の気持ちを上城君に言ったことはなかったな。
告白だって、上城君からだった。私はまだ、何も言ってない……。
私は、上城君のことをどう思ってるの?
最後の質問を自分にしてみる。考えるまでもなかった。うん、もう答えはわかってる。まだ、伝えてないだけで。
もしかしたら、上城君は私のことが嫌いになっちゃったかもしれないけど……。もう、終わりなのかもしれないけど。
それでも、自分の気持ちを言ってみよう。
私は、そう決めた。
放課後に向けて、時計の針は相変わらずゆっくり進む。