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第二十九話:円周率とあたたかい目

『放課後、裏庭に来てください』

 僕は秋庭さんに、そう言った。



 うわ――!

 何言っちゃったんだ、自分は。しかも、よりによって朝に。これじゃ放課後まで一日中気まずくなるじゃないか。せめて終礼の直前とかにしとけば良かった。

「か、み、し、ろ、クンっ」

「坂下……」

 鳥肌たったぞ、今の声。

 坂下は満面の笑顔を浮かべていた。

「何だその顔……」

「あたたかい目」

 お前らはドラ○もんか?

 大河内がぽん、と僕の肩に手を置いてくる。

「お前の雄姿はしかと見届けたぞ!」

「の○太クン、頑張れ」

 誰がの○太だ誰が! ……じゃなくて、見られてた――!?

「放課後、うらに……がはあっ!」

 僕は人生最速の動きで坂下にヘッドロックをかけた。

「何かな坂下君? 何を言おうとしてるのかな? 返答によっちゃ永遠の眠りに……」

「まて上城! 話せばわかる!」

「坂下、僕の記憶力にかけて君の事は忘れない……円周率の様に無限の馬鹿パワーを持っていた君を……」

「何を言ってる大河内ぃぃいい!」

 坂下が叫ぶ。僕は腕に力を入れた。

「ギブギブ! 今まさにデッドオアアライブ!」

 何かホントにやばそうだったので一端離した。ガホッと坂下が咳き込む。

「でもさ、もうこれ以上恥ずかしい事はないだろ?」

 大河内がにやりと笑う。

 確かに、告白予告を友人に聞かれる以上に恥ずかしい事なんて、そうはないだろうけども。

「だから大丈夫だよ。落ち着いて告白出来るさ」

「……」

「俺たちは陰ながら見守ってるぜ!」

 見守るな。



 刻一刻と、時間は過ぎていく。それなのに、今日という日は今までで一番長く思えた。

「蓮」

「遙……」

「坂下に聞いたよ」

 おのれ、坂下。

 うつ向いている遙の表情は読み取れない。あれから、何となく気まずくなってしまった。

 お互い口を開かないまま、その場はしばらく沈黙に支配される。

「あのさ」

「あのね」

 しまった、ハモった。

 遙は吹き出す。

「あははっ先にいいよ」

「えっと……頑張るよ」

 もっとましな事は言えないのか自分。

 けれど、遙は笑顔を浮かべた。

「頑張れ、上城 蓮!」

 ばしん、と遙は背中を 叩く。

「あたしも、頑張るから。あたしの好きな、秋庭さんに恋してる頑張り屋の蓮でいて」

「……うん」

 ありがとう、遙。

「終礼始めるよー!」

 先生の声。

 進み出す時計は時間の到来を告げる。

 放課後は、すぐそこ。

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