第二十八話:線香と二文字の言葉
ふわりと、線香の独特な匂いが薫る。
見渡せば一面に、背の低い灰色の墓石が並ぶ、今年もこの場所にやって来た。
ここは昔から、どうも苦手だ。
「アニキ、マッチ」
「ん」
琳からマッチを受け取り、しゅっ、と擦る。そして、蝋燭に火を点けた。
線香を蝋燭の先端に近づけると、一瞬赤く火が灯り、白い煙が風に流れ出す。
その煙を見ながら、ふと、そういえば秋庭さんの笑顔を最初に見たのは、坂下達とマッチの話をしていた時だったな、と思った。
ずいぶん前の事になるんだな。
あの頃はまだ春。そして今は――秋。
秋庭紅葉という名前のせいか、この季節、どこにいても秋庭さんを思い出してしまう。
「あー……カッコ悪いな……」
僕はどうしてこんなにカッコ悪いんだろう。
必死で君を追いかけて、手を伸ばそうとして、勇気がないから引っ込めて。
自分がもっとカッコ良かったら、秋庭さんの事も、こんなに悩まずに済んだだろうに。
「? 拝まないの?」
「ああ、うん」
一回頭の中を振り切って、手を合わせる。
――母さん、久しぶり。
今年はすごいニュースがあるんだ。
好きな子が、出来たんだよ。
そこで、僕は彼女にまだ言っていなかった事があるのを思い出す。
日本語で、たった二文字。
だけどそれを言う勇気がなくて、告白はしたものの、その言葉をわざと避けていた。
秋庭さんの気持ちは、僕にはまだわからない。
それでも、もう後ろには戻れないんだ。秋庭さんが僕のことをどう思っていたとしても、そこで逃げて全部無かった事になんて、もう出来ない。
だから――。
*
次の日の放課後、僕は秋庭さんを呼び出す。
二文字の言葉を、伝えに。