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第二十七話:空の机と見つけた本心

秋庭さん視点です。

「え……」

 『僕と付き合ったのは、<話しやすい>からですか?』

 違う、と言いかけて、止まった。

 付き合ってくれと言われ、話しやすい事を理由にしたのは確かなのだから。

 でも、とっさに答えが出てこない。

「はい、それじゃあ、また……」

 電話が切れた後の、ツー、ツーという無機質な音が、いつまでも電話の奥から鳴り響く。

 ――ツー、ツー。

 それはまるで、私と上城君との距離が途切れてしまったようで。



「坂下のばーか、なんなの昨日の? つくにしてももっとましな冗談ついてよね」

「冗談じゃねーよ! 俺は本気で……」

「うるさい、馬鹿」

 教室に入ると、坂下君と小野寺さんがいつものように騒いでいた。

 いつもと変わらない光景に、私はほっとする。

「あ、おはよう秋庭さん」

「おはようございます」

 大河内君に挨拶を返す。教室をぐるりと見回すけれど、上城君の姿は無い。まだ来てないのかな……。

「あれー、上城まだ来てない? 秋庭さんが来たよー」

「蓮なら休みよ。だって今日……」

 小野寺さんの答えに、私を除く三人の間で納得したような空気が流れた。

 何がなんだかわからない私に、大河内君が説明してくれる。

「今日は、……上城のお母さんの命日なんだ。それで毎年この日はお墓参りに行ってて……」

「そうなんですか……」

 お母さんの命日、お墓参り。

 ――全然知らなかった。何もかも、上城君のこと、私は何も知らなかった……――。






 なんだか、その日はいつもより気が重い。

 上城君は休みだとわかっているのに、気が付くと、目が上城君の席を見ている。

 その空の机には、今日幾ら待っても彼が座る事はないけれど。

 『僕と付き合ったのは、<話しやすい>からですか?』

 ――ああ、そうか。

 やっとわかった。彼が学校を休んで、初めて。

 咄嗟に話しやすいということを理由にしたのは、只の言い訳。上城君より話しやすい人は他にもいる。

 むしろ、上城君といると何故だかいつもより、緊張してしまうから、話しにくいとも言えた。

 でも。

「私は上城君と話したかったんだ……」

 其れを小声で口にし、明確に答えを出した瞬間、もやもやと燻っていた胸のうちが急速に澄み渡った。

 ――何で話したかったの?

 自分への、答えのわかっている問いかけ。

 それは、私が――。

 ノートの隅に、小さく「好」という言葉を書きかけ、誰にも見られないうちに消しゴムで消した。

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