第二十七話:空の机と見つけた本心
秋庭さん視点です。
「え……」
『僕と付き合ったのは、<話しやすい>からですか?』
違う、と言いかけて、止まった。
付き合ってくれと言われ、話しやすい事を理由にしたのは確かなのだから。
でも、とっさに答えが出てこない。
「はい、それじゃあ、また……」
電話が切れた後の、ツー、ツーという無機質な音が、いつまでも電話の奥から鳴り響く。
――ツー、ツー。
それはまるで、私と上城君との距離が途切れてしまったようで。
*
「坂下のばーか、なんなの昨日の? つくにしてももっとましな冗談ついてよね」
「冗談じゃねーよ! 俺は本気で……」
「うるさい、馬鹿」
教室に入ると、坂下君と小野寺さんがいつものように騒いでいた。
いつもと変わらない光景に、私はほっとする。
「あ、おはよう秋庭さん」
「おはようございます」
大河内君に挨拶を返す。教室をぐるりと見回すけれど、上城君の姿は無い。まだ来てないのかな……。
「あれー、上城まだ来てない? 秋庭さんが来たよー」
「蓮なら休みよ。だって今日……」
小野寺さんの答えに、私を除く三人の間で納得したような空気が流れた。
何がなんだかわからない私に、大河内君が説明してくれる。
「今日は、……上城のお母さんの命日なんだ。それで毎年この日はお墓参りに行ってて……」
「そうなんですか……」
お母さんの命日、お墓参り。
――全然知らなかった。何もかも、上城君のこと、私は何も知らなかった……――。
なんだか、その日はいつもより気が重い。
上城君は休みだとわかっているのに、気が付くと、目が上城君の席を見ている。
その空の机には、今日幾ら待っても彼が座る事はないけれど。
『僕と付き合ったのは、<話しやすい>からですか?』
――ああ、そうか。
やっとわかった。彼が学校を休んで、初めて。
咄嗟に話しやすいということを理由にしたのは、只の言い訳。上城君より話しやすい人は他にもいる。
むしろ、上城君といると何故だかいつもより、緊張してしまうから、話しにくいとも言えた。
でも。
「私は上城君と話したかったんだ……」
其れを小声で口にし、明確に答えを出した瞬間、もやもやと燻っていた胸のうちが急速に澄み渡った。
――何で話したかったの?
自分への、答えのわかっている問いかけ。
それは、私が――。
ノートの隅に、小さく「好」という言葉を書きかけ、誰にも見られないうちに消しゴムで消した。




