第二十六話:もらった勇気と電話
響いていた足音も消えた、薄暗い教室の中。
僕は遙の何を見てきたんだろう、と思う。
心中でまた、ごめん、と言いそうになったのを堪えた。大きく息をついて、僕は立ち上がる。
そうして、玄関を出て、帰路を辿った。遙と鉢合わせしてしまわないように、思い切り回り道をして。
こういうとき、幼馴染というのは難しい。何しろ、家がすぐ近くで、家族ぐるみの付き合いなものだから、頻繁に会う。
そう、遙は僕にとって『家族』だったんだ。
小さい頃からずっと一緒で、「遙って、妹じゃなかったの?」という質問をしたくらいに。
まるで双子のきょうだいのような、そんな存在だったんだ……――。
歩道に敷き詰められた落ち葉が、足の下でかさりと音を立てた。
*
「ただいま」
「お帰り。明日は母さんとこだからね」
妹が返事をする。
明日は墓参りか……。
僕はどさりと、自分の部屋のベッドに倒れこむ。
もう、あれから七年になるんだな。
あの日もこんな風に、色づいた葉っぱが風に散っていた。
「……」
僕は携帯を取り出した。
それは、アドレス帳の一番上で、簡単に呼び出すことができる。
しかし、今までにそのアドレスにメールを入れたり、電話をかけたりしたことは無かった。
少し迷ってから、通話ボタンを押して電話をかける。
携帯画面に表示された名前は、『秋庭さん』。
無機質なコール音が一回、二回と、鳴るたびに緊張を高まらせた。
「もしもし」
「もしもし、秋庭さん」
「上城君?」
僕はほっと息をつく。
「どうしても訊きたい事があって」
『幸せになって』、と遙は言った。『それじゃなければ許さない』、とも。
遙に、勇気をもらった。
臆病な僕はずっと訊けなかったけれど、秋庭さんに訊かなければならない事がある。
「僕と付き合ったのは『話しやすい』からですか?」