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第二十五話:ごめんとありがとう

「……え?」

 言われた意味が、良く理解出来なかった。

 今、遙はなんて言った?

 僕のことが好きだって?

 そんな、まさか。遙とは幼馴染で、そんな事を考えた事は一回も無かった。

「ははっ」

 遙は、渇いた笑い声をもらす。

「七年前の明日――29日から、ずっと好きだった。……ううん、好きだと思ってた」

 遙は、静かに語り初める。

「お葬式のとき、泣いてる蓮を見て、あたしが側にいなくちゃ、って思ったの。だけど、いつの間にか勘違いしてたんだね。いつの間にか、蓮の事が好きだ、って思い込んでた」

 遙は制服の袖口で顔を拭う。そして、きっ、と真剣な面持ちでまっすぐ僕の方を見る。

「あれから、蓮は何をするにも空っぽで、誰の事も好きになる事が出来なかった。好きという感情だけじゃない。笑うことも、怒ることも、泣くことまで。……だけど、中学に上がって、坂下と大河内に会ったんだ」

 僕はただ黙って、それを聞く。

 口を挟むことなんて出来やしない。そもそも、そんなことをしようとさえ思わなかった。

 ……遙は、こんなに僕のことを見ていてくれたんだ。でも、僕は。僕は遙の何を見てきた?

「それから、蓮は笑うようになった。怒るようになった。泣けるようになった。でも、誰かを『好き』になることは無かった」

 でもね、と遙は呟く。


「でもね、秋庭さんが現れたの」


「蓮の前に、秋庭さんが現れたの。蓮は秋庭さんにどんどん惹かれていって、秋庭さんを好きになった。勉強も頑張って、……告白もして。そんな蓮に、あたしは惹かれた。

 もう、あたしが側にいなくても全然平気なくらいに元気になったのに。すっかり元に、戻ったのに。なのに、あたしはどんどん蓮が好きになった。……だから!」

 突然、遙は声を荒げる。そして一気に叫んだ。


「あたしは秋庭さんに恋してる蓮が好きだったんだ!」


「……!」

「秋庭さんに恋してから、蓮は変わった。本当に変わった……。それで、あたしはそんな蓮を好きになった。変わる前の蓮より、変わった後の蓮の方が好きだった。だけど……だけど、変わったのは、蓮が秋庭さんを好きになったから……っ」

 遙はしゃくりあげる。

 まぶたに溜まった涙を必死に堪えているのがわかった。

「ごめん」

 僕は、謝る。

「ごめん。気づいてやれなくて、ごめん。幼馴染で、小さい頃からずっと一緒にだったのに。遙は、ずっと支えてくれてたのに……」

「謝らないでよ」

 僕の言葉は、途中で遮られた。

「謝らないでよ。謝られたら、余計辛いわよ」

「……」

 僕の中には、すっきりしない気持ちだけが残る。

 こういう時、どうしたらいいのか、何を言ってやればいいのかわからなかった。

 お互いに何も言わず、もやもやとした沈黙だけがその場に漂う。

「秋庭さんと、幸せになって」

 遙はぽつりと呟き、沈黙を破った。

「あたしが身を引いたんだ。秋庭さんと幸せにならなきゃ許さない。絶対に許さないんだから」

「……うん」

「あたしまで幸せになるくらいに。あたしが諦めた事を後悔しないくらいに」

 僕は頷いた。

 遙は唐突に後ろを向き、伸びをする。

「あーあ、全部言ったらなんかすっきりした。今日はもう帰るわ。帰って、やけ食いでもする」

 遙は僕と目を合わさないまま、鞄を掴み、教室のドアへ向かう。

「バイバイ」

「……遙」

 遙が立ち止まる。

 僕が今、言わなくちゃいけないことがある。


「ありがとう」


「……馬鹿」

 遙は、教室を出た。

 リノリウムの床を歩く足音が響く。

 教室に一人残された僕は、徐々に小さくなっていくその足音を聞いていた。やがてふっつりと途絶え、聞こえなくなってしまうまで。

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