第二十四話:地獄のテスト返しと『話しやすい』こと
秋庭さんが告白話をオーケーしてくれた理由はなんだっけ?
僕は記憶を遡る。
そうだ、『他の人より喋りやすいと思うから』だった。
*
「うわあああああ」
各々の教室から、悲鳴が響き渡る。
中には、「もう駄目だ」「殺される」等という声もあった。
期末テストが過ぎ去った今、僕ら善良な学生を恐怖の底に叩き落すのは何か?
そう、『テスト返し』である。
「蓮、どうだった?」
遙に訊かれた。
「ノーコメント……」
幾らなんでも、これを言うのはちょっと。
「四の五の言わずに見せなさい」
「うわっ!? なにすんだ!」
時既に遅し。
テスト用紙は僕の手から消え、遙の下へと渡っていた。
「……? 全然悪くないじゃん、これ」
「え?」
僕はそのテスト用紙を確認する。
ああ、化学か……。
「まあ、化学だけは」
他の教科は本当に目も当てられなかったが、化学だけはまともな点数を取る事が出来た。
それに関しては、秋庭さんに本当に感謝している。
「ホントに化学だけねー。うわ、英語なんか大変」
「だから、見るなっ」
言うなり、僕はひったくるようにして、遙からテスト用紙を奪った。
いや、奪うというか、元々僕のだけどさ。
「ねえ、今度皆で遊びに行かない?期末打ち上げパーティー!」
それはいいかもしれない。けれど、遙は直ぐに浮かない顔になった。
「あ……でも、蓮は秋庭さんと付き合ってるんだっけ」
「なっ」
あんまり大きな声で言われると恥ずかしい。
「……蓮から告白したんだっけ?」
「……まあ……」
「秋庭さんは何て言ってOKしたの?」
「?」
何だ?やけにしつこいな。
遙は大抵こういう話に深入りしないタイプの筈だけど。
「いいから」
何だか変だ。
僕は、とりあえず記憶をたぐり寄せる。
『他の人より話しやすいと思います』
「――」
今まで、この言葉の意味を深く考えた事はなかった。
ただ、OKしてもらったことに浮かれていたんだ。大河内の言うとおり。
『話しやすい』って、どういう風に?
遙とは、話しやすい。多分、女子の中じゃ一番話しやすいだろう。
でも、それは幼馴染みだから。
「蓮?」
秋庭さんは、内気な性格だ。
だから、話しやすい人間を好きと勘違いしているのか?
そう、僕が遙に対して、幼馴染みに対して思うのと同じように、『話しやすい』――?
「ゴメン変なこと訊いて。別に言わなくていいよ」
遙の言葉に、僕はいつの間にかうつ向いていた顔を上げる。
『話しやすい』という単語がぐるぐると頭を巡っていた。
こればかりは、秋庭さんに訊かないとわからない。