第二十・五話:遙と坂下とオヤジの頭
ちょっと番外になります。
前半が遙視点で、後半は坂下視点です。
「あの、告白の答えを聞かせてほしいんですけど」
聞いてしまった。
さっきも、蓮と秋庭さんの手助けをしてしまった。
あんなに楽しそうな蓮は、あたしの隣では滅多に見られない。
――あの、雨の日から。
楽しいことも、哀しいことも、何もかもを蓮から奪い去ってしまったあの雨から、坂下と大河内に出会うまで、蓮は何も感じなくなった。
好きな人が出来るなんて有り得なかった。
「ホントに告白、したんだあ……」
晴れて澄み渡った空とは対照的に、あたしの気持ちは、深い深い泥の中に沈み込んでいった。
もう、あたしの入る隙間は無いかもしれない。
でも、蓮にしてみればこれは良いことなんだ。
好きな人が出来て、雨に流されたものが還ってきて。
それなのに、何で?
何であたしはそれを喜んであげられないの。
「本屋よるから」
今は、蓮の隣が辛くて、嘘をついて脇に曲がった。
「あっちょい待て」
なんでだか、坂下が後ろを追いかけてきた。
「何で来るのよ」
「ん?そういや何でだ。何か気分?」
坂下はぽりぽり頭をかく。
「気分って何よ。ついてこないでよ」
「方向が同じなんだよ」
「嘘つけ。あんたこっちでしょ」
ぴっ、と左の道を指差す。
すぐばれる嘘なんかつくな。
でも、何でついてくるのかは本当にわからなかった。
「…蓮と秋庭さん…か?」
「!!」
悩みの原因を言い当てられて、びくりと体が震えた。
「どういう意味よ」内心の動揺を悟られないように、平静な声を装ったが、硬くなった声が逆に動揺を伝えた。
坂下は、いつもと違う真面目な顔をしていたが、あたしはそっぽを向いていて見えなかった。
「そのままだよ。蓮が秋庭さんに……」
嫌だ。聞きたくない。
自分で思っておちこむだけならまだしも、他の人から其れを聞くのは、事実を認めさせられる気がして嫌だった。
「急いでるの!じゃあ!」
逃げるように、道を駆け出した。
というより、逃げた。
坂下の方が足が速いから、走られたら追いつかれてしまうけれど、向こうも追っては来なかった。
視界の端に、空が見える。
空は、何処までも透明で。
――空はこんなに綺麗なのに、どうしてあたしはこんなにも汚いんだろう。
「本屋よるから」
「あっ、ちょい待て」
反射的にそう言って、俺は踵を返した小野寺の後を追いかけた。
「何で来るのよ」
「ん?そういや何でだ。気分?」
ホントに思わず来てしまったものだから、訊かれても理由なんて全然わからなかった。
ただ、小野寺がなんとなく辛そうで、なんとなく来てしまったと言うだけで。いや、ホント。
「…蓮と秋庭さん…か?」
「急いでるの!じゃあ!」
何気なく、思い当たった節を訊いてみたら、ジャスト地雷だったらしい。
そのまま小野寺は走り去って行ってしまった。
走ったら簡単に追いつけるだろうけど、行かなかった。
どうせ、俺が行ったって小野寺は喜ばないだろうし。
「あー、やっちまった……」
何で俺はいつも余計なことを。
蛇の絵かいたら絶対足つけるタイプだな。
小野寺はもう見えなくなっていた。
走り去っていった後のがらんとした道を見て、ちょっと思った。
幼馴染は恋愛対象にならないって、昔から言うのにさ。
現に、蓮はちっとも小野寺をそういう風には見てない。
「なのに、なんでお前は好きになっちまったんだよ……」
俺があいつらと会ったのは中学からだから、小学校の間に俺が知らない何かがあるのかもしれない。
蓮のことなら大抵知ってるけど、小野寺に関しては驚くほど何も知らなかった。
「あー、俺の気持ちもオヤジの頭だぜ」
つまり、不毛ってこと。
ふと見た空が、滅茶苦茶に青かった。
それがあまりにも、綺麗過ぎて。
……ケンカ売ってんのか空!
なんか空にちょっとムッときた。何もこんな雲ひとつない青空ってさ。
少し雲がある位がいいんだよ。




