表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/38

第十九話:フェルマーの定理と秋庭さんの問いかけ

 …一つ、僕の中で気になる事があった。

 今までもずっと気になっていたけど、何とか考えない様にしてきた、そんなもの。

 それは、「結局秋庭さんに告白してどうなったんだっけ!?」というものである。

 まあ、今は勉強会中の訳だし。勉強、勉強。

 しかし、人間一度気になりだしたものは止まらない。まったく勉強に集中出来なかった。

 そもそも、何でいきなりこんなことが気になりだしたんだっけ?

 あ、多分さっき桜さんに「返事まだ?振られたんじゃね?」って言われたせいだ。まったく、あの人は何てことを言うんだ。

 …結構クリティカルヒットだったり。

「おーい、上城?蓮〜」

 気がつくと、大河内が僕の目の前で教科書をぶんぶん振っていた。

「なにやってんの?百面相は見てて面白いけどね。…それより、ルーズリーフ」

「えっ?ああ!」

 大河内に言われて初めて手元を見た。

 ルーズリーフの上に書かれた字…らしきものはものの見事にぐちゃぐちゃで、しかもそのルーズリーフ自体が乱暴に掴まれて滅茶苦茶になっていた。

「誰がこんなことを!」

「お前だ」

 …大河内にツッコミ役を奪われてしまった。相当だな…。

「フェルマーの定理はワイルズが証明するまで350年かかったっていうけど、君の行動はそれ以上の難問だと思うよー」

「そりゃどうも」

 すると、科学反応式を理解した坂下が話しかけてきた。

「なあなあ、何か科学反応式の問題出してー」

「水の記号は」

「馬鹿にすんなよ。H2Oだろうが」

 そういやさっき答えてたっけ。

「酸化マグネシウム」

「さ、酸化…?」

 おいおい!まだ中学の範囲なんですけど!

「参加することに意義がある!」

「違うわ!」

 ちなみに解答はMgO。

「つ、次!」

「硫化鉄」

「鉄はFeだったよな」

 おっ、次はいけるかも。

 だが、こいつに期待したのが間違いだった。

「エフイーの家をー見に行こうー」

 あああ、聞き覚えのあるCMソング!しかもエスピーだよ、たしか。

「桜さーん数学教えてー」

 逃げたな。

 しかし、意外なことに桜さんの顔色が変わった。

「数学だと…?」

 腕はわなわなと震えている。

「フン。自分でやりやがれ」

 その時、遙の腕が上がった。

「桜さん、私も数学教えて下さい」

「うっ!数学…。しかしこの秋庭桜、女の子の頼みは断れない性分でね」

 どうやら桜さん、数学は苦手らしい。

 だが、数学といえばもちろんこの人。

「あ、数学なら僕が教えるよ」

 そう、大河内。

「ここの線分と線分が平行だから、和分の積で、△ABC∽△DEF」

「すごーい、大河内!」

 大河内はあっという間に三角形の相似を証明し、遙の奨励までうけてしまった。

 どうやら、それが桜さんの琴線に触れたらしい。

「…お前は気に入らん!」

 なんてわかりやすい人だろう。



 …桜さんのおかげで秋庭さんと話すことはおろか、近づくことさえ出来ない。

 桜さんは、秋庭さんの周囲を仁王立ちで監視しつつ、守護バリアを張りまくっている。

 と、大河内がルーズリーフにメモを書きつけ、遙に手渡して、小声で何か言った。

「桜さん、この問題がわからないんですけど、やってみてくれませんか」

 遙が桜さんにルーズリーフを手渡した。

 書かれていたのは、『もしnが2より大きい整数である場合には、Xn+Yn=Anをみたすようなどんな整数も分数も存在しないことを証明せよ』、という問題。

「うっ!しかしさっきの雪辱戦…ちょっと待っててくれ」

 桜さんは、遙の隣に腰を降ろすと、ルーズリーフとの睨み合いを始めた。

「ちょいちょい、上城」

 大河内に小声で呼ばれた。

「今のは?お前が遙に渡したやつだろ」

 大河内は頷いた。

「フェルマーの定理。さっきの証明するのに三百年かかったやつ。絶対出来ないから、桜さんがやってる間に秋庭さんと話してきなよ」

「えっ!?」

「ほらほら、急いで」

「ありがとう大河内…こんど何かおごるわ」

 ホントに恩に着る。

 僕は、ありがたく秋庭さんの近くに席を変えた。

 隣だと桜さんに気づかれるので、少し間を空けて。

「秋庭さん、今何処やってる?」

「あっ、上城君。今は英語です」

 僕も英語の教科書を開いた。

 当然だけど、秋庭さんの方が頭が良いから、同レベルで勉強とは中々いかないけれど、美術なら僕にも教えられる。

 秋庭さんに英語を教えてもらって、美術を少し僕が教えて。

 うん。生きてて良かったよ、ホント。

 ただ、その時僕は気づかなかったけれど、僕と秋庭さんの手助けをしてしまった遙は、幾分複雑な顔をしていた。



「それじゃあ、そろそろおいとまします」

「お邪魔しましたー」

 遙以外もう来るな、という顔をしている桜さんを背景に、勉強会は終わった。

 秋庭さんが外に出て、見送りに来てくれる。

「また来てくださいね」

「…秋庭さん」

 皆が先に行ったのを見計らって、僕は遂に秋庭さんにそれを訊いた。


「告白の返事、聞かせてもらいたいんですが」


「……!」

 秋庭さんは、凄く驚いた顔をした。

 長い、沈黙が場を満たす。

 本当は一瞬の間だったのかもしれない。けれど、今の僕には、その間は酷く長く感じられた。

「……」

 秋庭さんは、口を開く。

 そして、僕にとって予想外の質問を投げかけた。


「上城君は、私のどこが好きなんですか?」


 ――何故だろう。



 僕は、その時秋庭さんの問いに答えられなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ