第十四話:元ヤンと守りたい人
曇一つ無い青空。
逆に何かが起こりそうな位平和だ。
しかし、先に起こることなんか今は気にしていられない。
まずは秋庭さんのあだ名を撤回させる事。
そして、何よりも。
僕の頭の中で黄色い歓声とチラッと見せる白い歯がフラッシュバックする。
そう!一崎清吾!!
まったく、まったく。
僕はとりあえず教室の扉を開けた。
「あ」
秋庭さんだ。今日は大吉。
「おはようございます」「おはよう」
すると、後から入って来た男子が、
「おはようオタクさん」
一瞬。僕が文句を言うより先に、そいつの体が宙を舞った。
「がはっ!?」
一拍置いて、悲鳴と机にぶつかる衝撃音が響く。
続いて、殴った者からの怒声。
「てめえ、いてこましたろかボケェ!」
え、えーと?
脅す前に、もう拳入ってるし。
恐る恐る声が飛んできた方向を見る。
そこにはメリケンサックをはめた鬼…いやいや、女子が立っていた。 よく見ると、足元にかなりの数の犠牲者の屍が転がっている。
この人、誰だっけ?
「千歳ちゃん!」
「止めんな、クレハ!まったくあたしが休んでたのをいいことに!」
ああ、そうだ。佐々さんだ。秋庭さんの親友の。
確かあだ名の時と、一崎の時は休んでたんだっけ。
「千歳ちゃん、ホントにもういいから…」
「あたしは許せへん!クレハをオタクとか言うた奴!覚悟しいやあ!!」
それにしてもこの人、さっきから方言が滅茶苦茶だな…。
最初は広島で、次は関西、ラストは岩下志麻。
あれ、岩下志麻は方言じゃないか。
「おーい、上城こっちこっち」
呼ばれた方に振り向くと、坂下と大河内が机でバリケードを作っていた。
「無事か?」
「なんとか」
「大体あの裏拳秒速何メートルだろう?見えないよ」
すると、からら、と教室の扉が鳴って、誰かが入って来た。
「おはよう秋庭さん」
キラッと白い歯が光る。
一崎だ!
「おはようございます」
「誰やこいつ」
佐々さんがうさんくさそうに、じろりと一崎を睨む。
「昨日転校してきた一崎清吾。よろしく」
「Nice to meet you too」
佐々さんの方言ミックスに英語まで入って来た。しかも発音完璧。一体、何者?
その時、幸運にもチャイムが鳴った。
「はーい、席に着いてねー」
先生は床に転がっている犠牲者を見て、
「朝だから眠いのは、わかるけどね、床で爆睡はねー」
寝てるのではなく気絶してるんですが。
そして、机や椅子が滅茶滅茶になっているのを見て、
「学級崩壊か?ナメた真似してんじゃねーぞガキども」
ごきり、と骨を鳴らす。
「浅川ちゃん、可愛いけど元ヤンなんだよなー…」
坂下がふっと、哀愁を込めた瞳を向ける。
確かに担任の浅川雛子は元ヤンだ。
『担任の浅川雛子ですーよろしくねー』
初登場の浅川先生は、何処か真延びした口調と、少しパーマのかかったセミロングの髪。その上、眼鏡を掛けた優しそうな風貌の相乗効果で、
「優しそうな教師だ」
と、皆を安心させたのもつかの間、
「世間ってのは縦社会!よって、教師と生徒は親分子分。親分の命令には絶対服従!それがこのクラスのルールだ」
眼鏡の奥でギラギラと双眸が鋭い眼光を放つ。
先生はにっこりと最初の笑顔に戻ると、
「これから一年間、夜露死苦ねー」
夜露死苦って…。
かくして、僕らのクラスは『浅川組』と呼ばれる事となった。
もちろん、クラスという意味の組ではなく、『族』という意味で。
かくして、気絶していた奴らは飛び起き、佐々さんの事件は不問となった。
ただ…
「上城、ちょっと来て」
放課後、僕は佐々さんに呼び出しをくらった。
「あんた、クレハのこと好きなんやろ?」
いきなり。
僕は一瞬言葉に詰まる。
「どうなん?」
「僕は…」
そんなの、決まってるさ
「僕は秋庭さんが」
「ストーップ!」
覚悟を決めて言おうとしたのに、何なんだこの人は。
「やっぱそれはクレハに言って」
「はー、安心したわ。クレハはあの通りめんこい子だし、私がいないときはあんたがクレハを守って。」
佐々さんは、
「めんこいって可愛いってことね」
と、付け足す。そんな事よりも。
「僕が…」
僕はあの時守れなかったというのに。
「私さ、転勤族なんだよ」
「あ、それで…」
言葉。
「ん。感情が高ぶったら、方言ミックスしちゃうし」
「もう高校になったけど、これから転校しないとも言い切れない。私はクレハを守れないかもしれない」
「だからさー…」
安易な約束は出来ない。
僕に出来る事なんて、たかが知れてる。
また、秋庭さんを守れないかもしれない。
でも、
「秋庭さんを守りたい」
佐々さんは、ニカッと笑った。