第十三話:転校生と開幕戦の嵐
「知ってる?転校生が来るんだって」
遙が言った。相変わらず女子は情報伝達が速い。
「へー…」
「反応悪いわね。もっと何かないの?」
「んなこと言われてもなあ…」
『イケメン、秋庭さんが好き、頭良し』の三つがビンゴしてなければ特に言うことはない。
「イケメン、秋庭さんが好き、頭良しがビンゴしてなければいいねえ」
坂下と大河内が僕の耳元で声を揃えて言った。
「!お前ら何故それを!…じゃなくて何言ってんだ!!」
「フッバレバレなんだよ隠したつもりか」
「そういうのを頭隠して恋隠さずって言うんだよな」
微妙に違うぞ?坂下よ。
しかし、その日が嵐の幕開けになるとは、誰も予想していなかった。
*
カツカツと先生が名前を黒板に書く。
『一崎 清吾』
「今から連れて来ますからねーー…イジメんじゃねえぞ」
先生は穏和な口調を切り換えて、ドスの利いた声で言う。
クラスはお喋りの喧騒で包まれた。
「どんな人かなあ」
「カッコイイといいなあ〜」
話声のほとんどは女子。
「イケメン、秋庭さんが好き、頭良しに千円」
僕らは賭けをやっていた。
「あ、俺も」
…薄情な友人関係だな。
「蓮は?」
「…不細工、秋庭さんを何とも思ってない、頭坂下と同レベルに千円」
「あ〜わかりやすいなあ〜」
「青春ビーム炸裂?」
その時、ドアが開いた。
きゃあああ、と女子の歓声が上がる。
「とりあえずイケメン」
ボソッと坂下が呟いた。
その通り、一崎清吾はイケメンだった。
「一崎清吾です。どうぞよろしく」
赤茶色の長めの髪に、チラッと見せる白い歯。
黄色い歓声がまた一段と増した。
「そうですねー席は…秋庭さんの隣が空いてますねー」
えっ?ちょっと先生、漫画みたいな展開。
それより、秋庭さんの隣ってちょっとちょっと。
一崎は秋庭さんの隣まで歩いて行く。
「よろしく。名前は?」
「あ…秋庭紅葉です。よろしくお願いします」
「秋の庭の紅葉か…」
「とても綺麗な名前だね」
「…ありがとうございます」
秋庭さんは表情にこそ出さないが、嬉しいに違いない。
待て、待て、待て。
ポイント高いぞ今の。
僕がやっと辿りついた距離を、一崎は秋庭さんと会って30秒で到達してしまった。
これはやばい。
僕は全身全霊で感じた。
嵐の―――幕開け。