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第十一話:エア・ウォークと壊顔

1時間目から、体育。

さすがに眠ってしまうことはないけれど、かなりだるい。

その上、担当の先生が熱血マッチョ・光田なのだから疲労度倍増。

暑苦しいことこの上ない。

そして体育は坂下の独壇場。

悪く言えば、体育“だけ”だけど。

「うぉっし跳び箱七段いっちゃるぜ!」

はしゃぐ坂下に、

「朝から元気だな…」

僕は欠伸をひとつ。

「七段跳べるの?そりゃ凄いね」言いつつ、大河内は跳び箱の段数を足したり割ったりして10になるような計算を作っている。

「案ずるな、北小のマイケル・ジョーダンと呼ばれた男だ」

「マイケル・ジョーダンってバスケの選手じゃん…」

せめてモンスターボックスの池谷とか。

段数が35段位違うけど。

だいたい、小学校の話って何年前だ。

「だからエア・ウォークで跳ぶんだよ」

「跳び箱を?」

エア・ウォークで?

「うむ」

「おいおい、そりゃちょっと…」

無理だろ。

絶対無理。

「俺の勇士をしかと目に焼き付けろ!」

「あ」

坂下は一目散に跳び箱に駆け寄り、跳び箱にぶつかる盛大な衝撃音を体育館に響かせた。



「まったく、馬鹿だわ」

遙が一蹴する。

あれから、坂下は足の小指が痛い、痛いと騒だして、とりあえず湿布を貼ることにした。「だいたいなんで私がやらなくちゃならないのよ〜」


遙は愚痴を溢す。

「そりゃ小野寺が保健委員だから」

坂下のもっともな反論に、

「わかってるわよ!うわ、なんか足臭そう」

「失礼な!フルーティな香りがするんだぞ」

「嘘つけ!」

……なんか足からそんな臭いがしたら逆に嫌だ…

まあ、でもこの二人、見てて飽きないな…

お似合い、ってやつかな?

「何ニヤニヤしてんのよ」

遙が睨む。

「ん?僕?」

「そうよ」

「いやいや、お似合いだと思ってさ」

『そんなことない』


遙はムキになって、

坂下は照れくさそうに笑って言った。

「無理!そんなこと絶っ対に無い!」

きつく否定する遙に、坂下はショックを受けたような顔をしていた。

「そんなに否定しなくとも…」

坂下が哀れになってきた。

そう僕が言うと、遙はますます不機嫌になって、

「蓮なんか光田とくっついちゃえ!」

「はぁ!?」

光田って男じゃん!

しかもマッチョじゃん!!

いきなり何を言い出すんだ、こいつは。

僕は今のところ秋庭さん一筋だし。

そういえば、僕はフラれたんだっけ?

嫌いってことはないって…


要するに、『振りだしに戻る』、か。




何時から秋庭さんが僕の視界に入って来たんだっけ…

最初は、

「秋庭」

と聞いて、


秋庭→アキバ→秋葉原?


なんて思ったものだけど。

教室がやけに騒がしい。廊下まで声が響いている。

何だ、何だ?

教室に入ると、笑い声がその場を占領していた。

しかし、それはさながら


嘲るような、見下すような、


そんな嫌な……嗤い声。

「秋庭ってアキバに似てるー!」

一人の女子の声に、数人がつられて笑った。

「確かに!じゃあオタク!?」

きゃはは、と甲高い笑い。

「秋庭さん本好きだしねー」

けたけたと、

その嗤いは無意識に、無自覚に、深く、他人の心をえぐっていく。

秋庭さんはその嗤いに包まれた混沌の中、


静かに微笑っていた。


只其れは、僕の知る彼女の笑顔ではなく、


『壊顔』


笑顔とは決定的に違う、全ての希望が打ち砕かれて壊死してしまったかのような、

目の前の惨劇に対する抵抗を全て諦めたかのような、

壊顔。

とても、痛々しい顔。

周りは、彼女の変化に気がつかないのだろうか?

秋庭さんが楽しくて皆と笑っているとでも、本気で思っているのだろうか?


嗤い声が、続く。


ぱりん、と、酷く小気味良い音を起てて、秋庭さんの心が割れる音を


聴いた気がした。

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