間章:秋庭紅葉と佐々千歳
秋庭さん視点です。
はあはあはあ…
自分でも珍しいと思うほど、とにかく走っていた。
上城君から告白された…。
とても驚いて、その場を逃げてきてしまった。
「千歳、ちゃん…」
肩で息をしながら友達の名前を呼ぶ。
「クレハ?珍しい〜走ってきたの?」
千歳ちゃんは、私が唯一クラスで敬語を使わずに、普通に話せる人。
そんな千歳ちゃんは私の事を「紅葉」を音読みして、「クレハ」と呼ぶ。
このあだ名を、私は気に入っていた。
大抵の人は、「秋庭」ときいて、「秋葉原」を連想するから。
「うん、走ってきた…」
「大丈夫?顔真っ赤ー」
千歳ちゃんが私の顔を覗きこむ。「え」
初めて顔が真っ赤だった事に気付いた。
確かに頬が熱い。
「は、走ってきたからだよ」
おそらくこれは言い訳。
走ってきたからじゃなくて、多分―――
「何かあったの?」
「へ?」
千歳ちゃんに言い訳は通じない。
何故か千歳ちゃんには私の思っていることがわかってしまうのだ。
でも、不思議と全然不快じゃない。
「ほーら、ほら。お姉さんに言ってごらんなさーい」
「うう…」
言っていいのかな。
「さあ、さあ」
「じ、実は…」
千歳ちゃんに全部話した。
なんだか、一人で迷うより、ずっと良い気がしたから。
「ぇえええっ!?」
千歳ちゃんがすっとんきょうな声を上げる。
「声が大きいよ」「ゴメンゴメン。しっかし上城もやるねぇ…」
「それで…凄くびっくりして…」
告白なんてされた事がなかった。
というより…
自分が人に好いてもらえる人間にはどうしても思えなかった。
「それで?びっくりしてどうしたの?」
千歳ちゃんの問いに、
「そ、掃除当番だから後で、って…」
「ぇえええっ!?」
千歳ちゃんは再び叫んだ。
「なにそれっ!?私なんか一回も告白された事ないのにー!」
「うう…ホントにびっくりして…」
後で上城君に謝ろう…
窓の外を見ると、雪が降っていた。
これがなごり雪ってやつかな?
この雪みたいに純粋で、素直な人間になれたらいいのに――。
誰かに、好かれる人間になれたらいいのに。
憧れは、願いのまま、成就することはない。
願いを叶えるには、憧れを目標に昇華させなければならない。
誰かを好きになりたい
好きになってもらいたい
こればかりは、憧れのまま、目標になんてなりそうもない。
…上城君は、私の事を好きになってくれているのかな――?
「クレハ」
千歳ちゃんに呼びとめられた。
「なんかまた、勘違いしてるみたいだから言っとくけどさ」
「私はあんたのこと大好きだよ」
「――」
思わず、頬が緩んだ。
同時に、何だか泣きそうになった。
千歳ちゃんには、なんでこんなに私の気持ちがわかるんだろう。
「多分上城もね」
うん、と言おうとしたけれど、頷く事しか出来なかった。
只、嬉しかった。
上城君に謝ってこよう…――。