第九話:告白と掃除当番SIDE・B〜四月の雪
ついにテストの結果が発表された。
廊下に貼られたそれを、緊張の面持ちで眺める。
テストの結果を見ることにこれほど緊張した事は無い。
上から順に名前を探す。
大河内はいつも通り、学年トップ。
秋庭さんは八番。
遙は十七番だった。
そして僕は―――
三十番:上城 蓮
「!」
一瞬遅れた後、其れが自分の名だと気づく。
目を見開いて、もう一度確認する。
何度も、何度も。
やがて、その名が消えない事を確かめると、
やった!!!
僕は誰にともなく、その場で小さくガッツポーズをした。
*
秋庭さんに、告、白…
その為に自分は頑張って勉強したのではなかったか。
それが、今。
目標が達成したにも関わらず、まだ迷っている自分が居るのだ。
「蓮!」
坂下と大河内がやって来て、僕の背中を思いきりひっぱたく。
「いてっ!!」
「ホントに三十番とりやがってー」「まったくだよ。君の平均点数と勉強量等から確率を計算したんだけど、全然三十番以内にいけそうになかったのにねー」
それは褒めてるのかけなしているのか?
「褒めてるに決まってんだろ」
大河内が言う。
「でも、なんでそんなに頑張ったんだよ?俺なんか百八十番だぜ」
…ちょっと待て!
一学年二百人だぞ!!
「それはすさまじいな…」
僕の呟きに、
「それより後ろに二十人もいたことの方が不思議だけどね」
「ひでー」
「きっと上城は目標の決め方が良かったんだよ。"何か賭けた"…とか」
どきり。まさかな…
「何賭けたんだよ?」
「何も賭けてないよ」
白々しい嘘。
「怪しいな〜」
「ホントに何もないっ」
三人で笑いながら、僕は意思を固めた
一回位、何かを試してみてもいいかもしれない
それに、結果がどうあれ、
僕にはこの二人がいるのだ
只その場につったって、君を見つめるだけより、
全身全霊で、当たって砕けろ
想いは口に出さなければ伝わることはない。
そして僕は、決意する。
秋庭さんに、告白しよう
*
「…僕と…ッ付き合って下さいっ」
「―――は?」
「え」
「すみません、掃除当番なので後で良いですか?」
「ハイ…」
「それでは」
緊張して、緊張して、少し早口で言ってしまった初めての告白。
それでも、僕の告白は彼女にとって掃除当番にも満たなかったらしい―――
秋庭さんはそのまま、小走りに走り去って行ってしまった。
元々失うものなんて、何もない。
とか思っていたけれど、これは結構ヘコむかもしれない。
それでも僕は、走り去る彼女の背中をじっと見つめていた。
その姿が完全に、僕の目の前からかき消えてしまうまで
ずっと…
僕はこんなに秋庭さんが好きだったのか…
「あーあ、カッコ悪いなあ…」
僕の前を雪が通り過ぎる。
四月の北海道
世間はもう春だというのに、
まだひっそりと、雪が降る。
白く、白く
僕の周りを雪が覆う
降り積もる雪は、どうせ何時か
溶けて消えてしまうのに
まるで、最初からそんなものは存在していないとでも、いうように
それでも雪は舞い降りる
懸命に、何かを繋ぎ止めるように
何かを伝えるかのように
空から舞い降り、地面に当たって――
砕けて消える。
僕の想いも雪の様に
降り積もって、
秋庭さんに当たって
砕けて消えてしまったのだろうか
いつか春がやって来て、
全て溶けて消えてしまうのだろうか
それはまだ、わからない。
けれど、僕にとって、彼女は春だから
そして、僕は雪じゃない
僕の想いが消えないように…
この雪に、僕は祈る。
この春最後の、雪だった。