前編
番外編です。ホモ注意(笑)
前・後編予定
それは小さな手帳だった。
魔獣帝国という獣人が平和に暮らす、国の博物館に保管されている。
この国は、豊かな土壌と気候に恵まれていて色々な国から狙われていた。
…昔は。
しかし獣人は強かった。
魔物とは違い知能があり、獣の姿にも人型にもなれる。
大半の獣人は人の十倍は力が強く、素早い。
そしてこの国を作りあげた賢狼という種族は、高い知能と力を持っていた。
その毛皮は巨大な魔術も弾き返し、知能の高い獣人は細かな制御は苦手だが魔獣と名のるだけあって、魔力も普通の人間の三倍はあり、魔術を扱うこともできる。
最初、国など持たなかった彼らは、ある強欲な国に戦力として徴収されそうになり…逆らってその国を潰し自分達の国とした。
民も自分達を害する王や貴族よりも、恐ろしくても魔獣の方がよいと従い…一時は魔国とすら呼ばれ、迫害にあっていた様々な種族の獣人が集まり帝国となったのだ。
戦うことは好きだが、争いごとは好まないという一種矛盾した性質を持つ獣人達は、売られたケンカを買ってるうちに、周囲の国全てを支配してしまいこの大陸一大きな国になってしまったのだ。
そんな帝国初代獣王の伴侶の残した手記だと、残されている手帳
「この博物館の保管品って魔術がかかってて、好きに手にとって見ることが出来るんだよっ」
友人のキャステスの興奮した声を背後に、真理はその手帳に釘付けだった。
はらりと手にとって開いてみる。
そこには予想通り、『日本語』の日記が綴られていた。
『状況を飲み込んで落ち着くために、日記を書いてみる。
俺は異世界に召喚されたらしい。……後日、この記録が笑い話になることを願う。』
そんな二行の出だしから始まっていた。
状況を飲み込んで落ち着くために、日記を書いてみる。
俺は異世界に召喚されたらしい。……後日、この記録が笑い話になることを願う。
俺は勇者として召喚されたらしい。何だかちやほやされてるが胡散臭い、家に帰りたい。
文字は読めないが、日本語が通じることだけが救いだ。召喚された勇者には秘められた力が宿るらしい…秘められた力(笑)って……なんかそんなもんが宿った気はしないんだが……
はい。宿って無かったよー、魔力適正ゼロ、剣術とか力も一般人並っていうか、村人Aレベル
周囲の態度が一変したよ。そんなこったろーと思ってたけどよ。家に帰せ。
城から放り出された。文句いったら槍突きつけられて脅された…うん。そんなこったろーとは思ってたけどよーっ、偽勇者だとよ、おめーらが勇者勇者勝手に言ってたんだろーがっ
子犬に拾われました。
いや、昨日はちょっと混乱してた。城から放り出されて一か月はたってる。現在地は森?っていうか谷?
食堂の下働きしてたんだけど、俺の存在召喚されて城から追い出された勇者って結構広まってて、今の王家を倒して下さいとか言いにくる奴とかいて、自分達でやれよっ!他力本願よくないと断ったら秘密を知られたからには…と、浚われて突き落とされた。おめーらが勝手に喋ったんだろーがよっ!
最悪だ、この世界の人間ども…あ、食堂の女将さんとおやっさんは別。二人に被害無ければいいなぁ…
なんか昨日書こうと思ってたことを忘れてた。
子犬に拾われました。腹へって行き倒れてたら、きゅんきゅん鳴いて寄ってきて、俺の崖から落とされた時の怪我とか舐めて治してくれた。すげー、治癒魔法?
さらに葡萄に似た果物を取ってきてくれて、分けてくれた。嬉しくて泣いたわ。
現在子犬の寝床で同居中、なんか象より大きなわんこ様もいる。長老らしい。喋るし。片言だけど。
人型にもなれるらしい。成獣は人間より普通に大きい。そしてやっぱり喋る。片言だけど。
チビも大人になったら、これくらい大きくなるらしい。
そういやここって食堂で聞いた魔獣の谷?生きて帰った人はいないって…うん、チビが大きくなるための保存食でもいいよ。チビは命の恩犬だもの。食われることになっても後悔したりしないぜ。
わんこ可愛い。気のせいか皆しゃべりが流暢になってきてる。俺に話しかけてくれるからかな?
毎日楽しい。俺、一生ここでわんこ達と暮らすんだ…なんてなんかのフラグみたいなことを書いてみる。
まぁ冗談抜きで、平和な暮らしが続いてる。召喚されてから半年は立ってるかなー…家に帰ることは諦めてる。わんこ達もいるし、チビもいるし…そろそろチビがチビじゃなくなるらしい。真面目に名前を考えた方がいいのだろうか?
くわれた
なんつーか、チビが大人になった。人型になった。えらい美形死ね。
いやいや、人型になれる話は聞いてたけど、見たこと無かったし。皆獣の姿の方が慣れてるらしい。
驚いてたら押し倒された。何が起こったんだか訳の分らんうちに、訳の分らん世界を知ってしまった。
食われてもいいって以前書いたけど、こーゆー意味じゃない…
ううっ、でもチビだと思うと嫌えない。俺はどうしたら…
俺はホモじゃないっ、可愛い女の子が好きですっ
もうだめだ
チビに色々と説得しようとしたら、なんか嫉妬されて…獣の姿にもくわれた…
こんなこと書き遺してどうすると思うけど、この世界で日本語読める人なんていないし、愚痴っておく。
獣の本能でしょうか?色々と凄かったんです。
俺にホモの素質なんてなかったはず、チビがテクニシャンすぎるのがいけない。
なんかチビ、明らかに他のわんこよりも賢くて強いし。カッコイイし。
チビって呼び名が似合わなくなったので、フェンネルと呼ぶことにした。
召喚されて二年は立ってる。なんか国が荒れてるらしい。
谷はなんか村っぽくなった。明らかに皆知能上がってねぇ?
口減らしで谷に捨てられた子供とか老人とかも保護して、仲良く暮らしてた。
食い物にも困らないし、魔物はわんこ達が倒してくれるし、安全。
でも今日、国の騎士達がやってきた。
なんか谷のこととか俺の存在が噂になってたらしい。
俺の勇者としての能力、魔獣使いだったらしい。使ってねぇよっ!毎晩美味しくくわれてるだけだよっ!
でも魔獣の能力を上げて従わせるらしいってとこに、ちょっと引っかかった。確かにわんこ達、最初に会った時より賢くなってるし……一緒に暮らしてるフェンネルは規格外だし…従ってはくれないけどなっ
やめろって言っても好き放題されちまうけどなっ
ともかく今更国に仕えろとか言われても頷けるはずはないが、逆らったらこの谷に軍隊が押し寄せるぞと脅迫された…ら、フェンネルが怒って巨大化……お前、そんなに大きくなれたんだ?自由自在らしい…
騎士達終了のお知らせ。
フェンネル、騎士達惨殺したけど、不思議と怖くない。あんな奴らよりフェンネルの方が大切だし。
ただ本当に軍隊が来たら、この谷は…フェンネルはどうなっちゃうんだろう?
悩んでたら、フェンネルと数匹が城を落としてきた。
なんかまだ実感湧かない。見てないし。朝、ちょっと出かけてくるって行って、友達のわんこ達と遊びに行って、城落としてきたーと、夕方帰って来た。
冗談…だと思いたいんだけど……
ほんとうだった。
事の処理とかてきぱき終わらせて、二週間くらいで国を落ち着かせた。
わんこ達もだけど、フェンネル明らかに人間より賢いだろう…二週間で国を乗っ取るってどんなチート?
フェンネル王様になっちゃったよ……
手帳の勇者の能力
『翻訳』どんな言語も話せ、理解出来ます。(無意識)
『魔獣使い』魔獣の能力を上げ、従わせます。(無意識)