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無愛想な旦那様が、魔法で幼児退行したら私にデレデレです。【2000文字】

作者: 有梨束
掲載日:2026/02/24

「隊長が幼児化してしまいました…!」

「はい…?」


今日も仕事に向かわれたはずの旦那様が、部隊の何人かに連れられて帰ってきた。

「えっと、幼児化、ですか?」

妻である私、ベルティーナは目が点になってしまう。


「はい…、部下の魔法が失敗しまして…。申し訳ありません!」

「旦那様は、何もお変わりないように見えますが…」

そこには今朝お見送りしたままの、がたいのいい旦那様が立っている。


「見た目ではなく、中身の方が…、幼児退行とでも言うべきでしょうか…」

「幼児退行…」

私だけでなく、後ろで控えている使用人たちも戸惑っているようだ。


「自然に戻る可能性もあるとのことで、お連れした次第です」

「はあ…」

「それと、それに際して記憶が曖昧のようで…」

「記憶喪失ということですか…!?」

「いえ、覚えているものとそうでないものがあるようです。解呪師曰く、幼児のキャパでしか物事を覚えていないのではないかと」

「そう、ですか…」

「ちなみに僕のことは全く覚えておられませんでした…」

あらまあ、旦那様の腹心さんのことを覚えていないなら、私なんかもっと忘れられていそうね。


結婚してまだ半年。

私たちは、政略結婚らしい結婚生活を送っている。

旦那様は私があまりお好きではないみたいで、眉間に皺を寄せていることも多い。


「旦那様、私のことはわかりますか…?」

「ベルティーナ!」

「…!わ、わかるんですか?」

「当たり前だ!ただいまベル!」

旦那様はニコニコしながら、私にギュッと抱きついてきた。

幼児の加減なのか、力が込められていて苦しい。


ええぇ?


どちらかというといつも無愛想で、無口で…。

しかも、いきなり抱き締められている。

…この方、本当に旦那様かしら?



「ベル!一緒に部屋に行こう」

「は、はい、旦那様」

愛称で呼ばれるなんて、はじめてだ…。

旦那様はヒョイっと私の手を握ると、ずんずん進んでいく。


主寝室に入ると、私にベッドに座るように言った。

「ベルの膝の上に座る!」

「えっ」

無表情とは真逆の旦那様が、目をキラキラさせている。


さすがにそれは私が折れちゃうんじゃない…?

軍人で筋肉隆々の体格のいい旦那様を受け止め切れる気がしない。

お、幼い子には、なんて言ったらいいのかしら?

相手は、大きい男性の旦那様だけど…。


「…嫌か?」

「いいえっ!」

明らかにしょんぼりする旦那様に、大慌てで首を振る。

「ええっと、あの〜、あっ!膝枕!膝枕はいかがですか?」

「…僕、眠くないぞ」

「でも膝枕なら、頭が撫でられますっ!」

ああ、変なことを口走っているわ…!

あと旦那様の一人称がいつもと違う!


「頭、撫でてくれるのか…?」

旦那様は機嫌を損ねるどころか嬉しそうに、素早く横になった。


頭が膝の上に乗って、コロンの匂いと、重みと温かさを服越しに感じる。


「これでベルは僕のものだ!」

「…ふふ、そうですね」

「頭も撫でてくれ」

「えっと、失礼します」

私には触られたくないのかと思って、今まで撫でたことなんてない。

旦那様の髪に、そっと触れてみる。

息を吐く音が聞こえて、思わず口元がにやけてしまった。


旦那様の腕が腰に回って、ギュッとされた。

なんか、実家で飼っていた大型犬を思い出す。


「ベル…、今日は一緒にいて欲しいんだ」

「もちろんでございますよ」

いきなり幼児化したのだ、不安になっていてもおかしくない。


「今日だけじゃなくて、ずっと僕と一緒にいて」

旦那様はくるりと上を向くと、私を見つめてきた。

その目に笑みが映ればいいなと思いながら、私は頷いた。

「私は旦那様のものです、ずっと一緒です」


「…ん」

まだ暗い部屋で目を覚ますと、隣で旦那様がもう起きていた。

昨日は旦那様がずっと私から離れなくて、湯浴みもせず2人で眠ったのだった。


「…旦那様、起きてらしたのですね」

「………ベルティーナ、その」

何か言いにくそうにしていて、不安になって体を起こした。


どうしたのだろう、魔法の作用で具合が悪いとか…?


「旦那様、大丈夫ですか?」

「…問題ない、中身も戻っている」

「まあ、よかった…。記憶の方はいかがですか?」

「…全部、ある。き、昨日のことも。…すまなかった!」

旦那様はガバリと頭を下げた。


「…私は、君といると緊張するんだ。だから、いつもは近づけなくて」


萎れている旦那様は、いつもの半分くらいの大きさになったみたいだった。

これでは、昨日とどちらが子どもかわからない。


「…君には嫌われたくなかったし、でも昨日は、何も我慢できなくて、あのようなことに…」

「ふふふ、私、好かれていたのですね」

「…好きだ」

「でしたら、もっと甘えてくださっていいんですよ…?」

今の旦那様になら言える気がして、勇気を出した。


旦那様は物凄く目を泳がせたあと、ポスンと私の肩に頭を乗せた。

それから、ふんわり抱き締められた。

それがあまりにも優しくて、泣きそうになる。


「ベル、ずっと好きだった…」


首元に頭を擦り付ける旦那様は、微笑ましくて、やっぱり大型犬みたいだった。




お読みくださりありがとうございます!! 毎日投稿55日目。

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