無愛想な旦那様が、魔法で幼児退行したら私にデレデレです。【2000文字】
「隊長が幼児化してしまいました…!」
「はい…?」
今日も仕事に向かわれたはずの旦那様が、部隊の何人かに連れられて帰ってきた。
「えっと、幼児化、ですか?」
妻である私、ベルティーナは目が点になってしまう。
「はい…、部下の魔法が失敗しまして…。申し訳ありません!」
「旦那様は、何もお変わりないように見えますが…」
そこには今朝お見送りしたままの、がたいのいい旦那様が立っている。
「見た目ではなく、中身の方が…、幼児退行とでも言うべきでしょうか…」
「幼児退行…」
私だけでなく、後ろで控えている使用人たちも戸惑っているようだ。
「自然に戻る可能性もあるとのことで、お連れした次第です」
「はあ…」
「それと、それに際して記憶が曖昧のようで…」
「記憶喪失ということですか…!?」
「いえ、覚えているものとそうでないものがあるようです。解呪師曰く、幼児のキャパでしか物事を覚えていないのではないかと」
「そう、ですか…」
「ちなみに僕のことは全く覚えておられませんでした…」
あらまあ、旦那様の腹心さんのことを覚えていないなら、私なんかもっと忘れられていそうね。
結婚してまだ半年。
私たちは、政略結婚らしい結婚生活を送っている。
旦那様は私があまりお好きではないみたいで、眉間に皺を寄せていることも多い。
「旦那様、私のことはわかりますか…?」
「ベルティーナ!」
「…!わ、わかるんですか?」
「当たり前だ!ただいまベル!」
旦那様はニコニコしながら、私にギュッと抱きついてきた。
幼児の加減なのか、力が込められていて苦しい。
ええぇ?
どちらかというといつも無愛想で、無口で…。
しかも、いきなり抱き締められている。
…この方、本当に旦那様かしら?
「ベル!一緒に部屋に行こう」
「は、はい、旦那様」
愛称で呼ばれるなんて、はじめてだ…。
旦那様はヒョイっと私の手を握ると、ずんずん進んでいく。
主寝室に入ると、私にベッドに座るように言った。
「ベルの膝の上に座る!」
「えっ」
無表情とは真逆の旦那様が、目をキラキラさせている。
さすがにそれは私が折れちゃうんじゃない…?
軍人で筋肉隆々の体格のいい旦那様を受け止め切れる気がしない。
お、幼い子には、なんて言ったらいいのかしら?
相手は、大きい男性の旦那様だけど…。
「…嫌か?」
「いいえっ!」
明らかにしょんぼりする旦那様に、大慌てで首を振る。
「ええっと、あの〜、あっ!膝枕!膝枕はいかがですか?」
「…僕、眠くないぞ」
「でも膝枕なら、頭が撫でられますっ!」
ああ、変なことを口走っているわ…!
あと旦那様の一人称がいつもと違う!
「頭、撫でてくれるのか…?」
旦那様は機嫌を損ねるどころか嬉しそうに、素早く横になった。
頭が膝の上に乗って、コロンの匂いと、重みと温かさを服越しに感じる。
「これでベルは僕のものだ!」
「…ふふ、そうですね」
「頭も撫でてくれ」
「えっと、失礼します」
私には触られたくないのかと思って、今まで撫でたことなんてない。
旦那様の髪に、そっと触れてみる。
息を吐く音が聞こえて、思わず口元がにやけてしまった。
旦那様の腕が腰に回って、ギュッとされた。
なんか、実家で飼っていた大型犬を思い出す。
「ベル…、今日は一緒にいて欲しいんだ」
「もちろんでございますよ」
いきなり幼児化したのだ、不安になっていてもおかしくない。
「今日だけじゃなくて、ずっと僕と一緒にいて」
旦那様はくるりと上を向くと、私を見つめてきた。
その目に笑みが映ればいいなと思いながら、私は頷いた。
「私は旦那様のものです、ずっと一緒です」
「…ん」
まだ暗い部屋で目を覚ますと、隣で旦那様がもう起きていた。
昨日は旦那様がずっと私から離れなくて、湯浴みもせず2人で眠ったのだった。
「…旦那様、起きてらしたのですね」
「………ベルティーナ、その」
何か言いにくそうにしていて、不安になって体を起こした。
どうしたのだろう、魔法の作用で具合が悪いとか…?
「旦那様、大丈夫ですか?」
「…問題ない、中身も戻っている」
「まあ、よかった…。記憶の方はいかがですか?」
「…全部、ある。き、昨日のことも。…すまなかった!」
旦那様はガバリと頭を下げた。
「…私は、君といると緊張するんだ。だから、いつもは近づけなくて」
萎れている旦那様は、いつもの半分くらいの大きさになったみたいだった。
これでは、昨日とどちらが子どもかわからない。
「…君には嫌われたくなかったし、でも昨日は、何も我慢できなくて、あのようなことに…」
「ふふふ、私、好かれていたのですね」
「…好きだ」
「でしたら、もっと甘えてくださっていいんですよ…?」
今の旦那様になら言える気がして、勇気を出した。
旦那様は物凄く目を泳がせたあと、ポスンと私の肩に頭を乗せた。
それから、ふんわり抱き締められた。
それがあまりにも優しくて、泣きそうになる。
「ベル、ずっと好きだった…」
首元に頭を擦り付ける旦那様は、微笑ましくて、やっぱり大型犬みたいだった。
了
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