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第5話 わたし、何変な妄想繰り広げてるの

 

 ところが、翌日。


 いつも通り教室に入って、後ろの席の友人、遠藤穂乃花えんどうほのかと目が合って、


「おはよう……」


 笑顔笑顔……!

 って、あんなに練習したのに、いざ笑おうとしたら、全然ダメだった。


「おはよう、ひさめー。今日も相変わらずのポーカーフェイスだね~」


 うう……っ、失敗。

 なんでよ。

 どうしよう。

 もう、魔法のクッキーは全部食べてしまったのに。


 こんなんじゃまた、氷姫に逆戻りだよ。


「なになに、どしたの?なんか変じゃない今日のひさめ」


「吉木くんに、フラれました……」


「あちゃー」


「吉木くんにまで、『もうちょっと愛想良くすれば』って言われて、もうわたし、立ち直れないよー……」


 わたしは昨日の吉木くんの冷たい言葉を思い出しながら、穂乃花に泣きついた。


「どうせさ、男子はみんな、ふわふわ可愛いピンクの服とかが似合う、ニコニコ笑ってアニメ声でお喋りしてくれる女の子が好きなんでしょ」


「いや、まあ、それはそれぞれ好みがあるからさ、みんながみんなそうとも限らないとは思うけど」


「なんでわたしは、こんな氷点下な顔面に生まれたんだろう……」


 話していたら、また昨日のことを思い出して、悲しみが込み上げてきそうだった。


 ダメダメ。もう泣かない。

 橘くんの美味しいクッキーのことを思い出すんだ。


 そして、幸せな気持ちになるんだ。


「ねえ穂乃花、橘くんってさ、お菓子作りが趣味って、知ってた?」


 わたしは、橘くんたち陽キャグループの男子たちに聞こえないように、こそこそと穂乃花にたずねた。


「橘くんって、橘莞爾たちばなかんじ?目付き悪くて耳にピアス空きまくりで威圧いあつオーラ出しまくりのあの橘莞爾?」


「う、うん。そうだけど」


「橘莞爾がお菓子……?そんなわけないじゃーん。クラスで一番似合わないよ。そもそも甘いものとか食べそうにないし」


「そ、そうだよね……」


 やっぱり。知らないんだ。


 よく考えると、わたしだって、今まで橘くんのこと何も知らなかった。


 見た目だけで判断して、ただただ無愛想で恐そうな人ってイメージしかなくて。


 部活とか、してるのかな。

 

 あの身長だから、バスケ部とか、バレー部とかかな。


 わたしは離れた席にいる橘くんの横顔をこっそりとうかがい見た。


 うっ、やっぱり恐い。


 負のオーラ出まくってる。


 でも、よく見ると、顔立ちは整っててイケメンかも。


 橘くんこそ、勿体もったいないな。

 無造作マッシュヘアは似合ってるけど、なんか、顔に影が出来てるからちょっと暗い感じになってるし、ピアスも、あんなにたくさん付いてなかったら、カッコいいで済むかも。


 いや、カッコいいのか?


 今まで恐いが勝ちすぎてて気付いてなかったけど、橘くんって、かなりのイケメンかもしれない。


 彼女とかいるのかな。

 いそうだな。

 一軍女子の綺麗な女の子とかと並んだら、絵になるし。

 ああ言うタイプが、好きな女の子にだけデレてくれるって最高じゃん……

 ニコって笑ってくれるとか。

 いわゆるツンデレってやつ……?


 いやいやいやいや、わたし、何変な妄想繰り広げてるの。


 だけど……。

 いや、泣いてたでしょ。いま――橘くんの言葉が耳によみがえる。

 橘くん、優しかったな。

 泣いてるわたしに、そっとお菓子くれるとか。

 ワケわかんないことわめいても、黙って聞いてくれてたし。

 

 お菓子。

 お菓子……欲しいな。

 もう、くれないかな。


 わたしには、橘くんのお菓子が必要だった。


 あれさえあれば、氷姫を脱却できる……気がする。

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