第3話 氷姫、笑えるんじゃん!
「あーーー!カンジが女子泣かしてるー!」
げげ……同じクラスの陽キャグループの男の子たちだった。
確か、鮫島くんと、三神くん。
橘くんは、威圧オーラたっぷりだけど、このグループの男子たちに混ざっていることが多い。
「いや、泣かしてないし」
「ち、違うの……っ。橘くんは、お菓子、くれただけで、わたしは、勝手に、泣いてるだけで……」
わたしは必死で説明した。
「え~、珍しいじゃん、カンジが女子にスイーツあげるとか。しかも相手、氷姫だし。いや、まじで旨いよそれ、取りあえずすぐ食べた方がいい」
「この厳つい顔でスイーツとか、まじでウケるけどねー。どんな顔で作ってんのっ……てか、どんな顔でそのラッピングしてんのって感じだけどね」
「……うるせーなオマエら」
橘くんは狼狽えた様子もなく、相変わらずの低温度の低音ボイスで言い返す。
えっ?えっと……まさかこれ、橘くんの手作りなの?
わたしは驚きを上乗せされながら、キラキラ小袋のピンクのリボンをそっと外した。
ふわりと甘い匂いが鼻に届く。
お花の形のクッキーが三枚入っている。
花びらの真ん中にはイチゴジャムだろうか。赤いジャムがあしらわれている。
すごい可愛い。売ってるお菓子みたい。
これを、橘くんが……?
口に含むと、ホロホロとほどける優しい甘さのクッキー生地に、少し甘酸っぱいイチゴジャムの味が、加わって……
「おいしい……」
思わず、顔が緩んでしまうぐらいの、美味しさだった。
「笑った……」
「ってか『氷姫』、笑えるんじゃん!」
笑ってる?
わたし、いま、クラスの男子たちの前で、もしかして、自然に、笑えてる……?
「だ、だって……本当に、美味しいんだもん」
「でしょー?」
「ってか西嶋さんさ、笑ったら可愛いじゃん」
か、可愛い……?
わたしは顔が赤くなっていないか、心配でならなかった。
「あ、ありがとうございました!わたし、帰ります!」
わたしは居たたまれなくなって、その場を逃げ出した。
手にはしっかりとオーロラ色のラッピングバッグ。
クッキーはまだ二つ残っている。
すごい。魔法のクッキーだ。
これがあれば、わたしは笑える。




