第23話 なんか、楽しそうだね、橘くん
「カンジ~!ヘタ取ったイチゴが350gなんだけど、グラニュー糖っていくらかなー?イチゴ300gだったら90gなんだってー。300gだったらら90gで、350gだったらいくらになるの?計算できないよ~!」
「30%っつったっしょ。計算もできないんすか!」
「ムリムリ分かんないー!計算してよーーー!」
「ぎゃーーーカンジ~!手ー切ったーーーーっ!絆創膏ちょうだいーーー!いや、ティッシュちょうだい!」
「火が強いって!焦げるって……!」
え、橘くん、めちゃめちゃ頼られてる……?
家庭科研究部での橘くんは、なんて言うか……お料理の先生?
いや、引率の先生……?
そんな感じだった。
すごい光景。
あの橘くんが、アヤノ先輩を含めた三年生からも、同学年の部員たちからも、なんかお母さんみたいに扱われている……。
そして橘くんも、みんなからの要求に一つ一つきちんと丁寧に(いや、めんどくさそうに?)対応している。
「なんか、楽しそうだね、橘くん」
わたしは思わず桜田くんに言う。
「面倒見いいタイプだよね」
「すごい意外なんだけど……。クラスでの橘くんと全然違う」
橘くんは、知れば知るほど意外な一面が出てくる。
「意外過ぎて惚れちゃう?」
桜田くんは冗談めかして言う。
「え……っ?」
急にそんなフリされたら、なんて答えたらいいか困ってしまう。
否定もできないし……!
「ほ、惚れちゃう……かも……」
と言うか、もう惚れてるんですけど……。
「くす……西嶋さん、赤くなってる~可愛い~」
うう……桜田くんの意地悪……。
「西嶋さんも、こっちからすると意外な一面有りすぎだよ。はじめ恐い人かと思ったけど、中身めちゃくちゃ乙女だし」
「うう……桜田くん、ストレートに言い過ぎ……」
作業に集中しよう。
橘くんに迷惑掛けられないし。
わたしは手に持ったキウイに集中した。
「西嶋さんも、手、擦らないように気を付けて」
ふいに橘くんに声を掛けられて、わたしは「はい!」と無駄に大きな声で返事してしまった。
みんなに頼られて、忙しそうなのに、わたしにまで気を遣ってくれて、橘くん、優しい……。
今日は夏祭り用のパートドフリューイの試作をするための、フルーツのピューレを作っている。
わたしはキウイをおろし器で擦りおろして、裏漉しする役目を仰せつかった。
難しいことじゃなくて良かった。
料理ができないのがバレてしまう。
皮むきも、ピューラーがあるから何とかなる。
どんなフルーツだと美味しく作れるか、いろいろ試してみるのだそうだ。
イチゴ、キウイ、レモン、ブドウ。
カラフルで美味しそうだ。
可愛いフルーツの宝石が作れそう。
「楽しいねこの部活」
「でしょー?カンジに任せとけばまず間違いなく美味しいもの作れるしね」
物足りないのは……部活でもクラスでも、二人きりで話す機会がまったくないこと。
みんなの前だと橘くんも、なんとなく素っ気ない態度。
部活が終わった後も、自転車通学の数人以外は、なんとなく皆でぞろぞろ駅に向かうことになるから、橘くんと一緒に帰るという雰囲気じゃなくて。
橘くん、家近いからすぐ電車下りちゃうし。
でもいいんだ。
橘くんの腕まくり上腕は今日もカッコいい。
テキパキとみんなに指示を飛ばして、自分でも片手鍋でフルーツを煮ている。
そんな橘くんをずっと眺めてられるんだから。
そして美味しいお菓子まで食べさせてもらえるんだから。
最高の部活だ。
「西嶋さん、味見、してみる?」
見上げると、黒髪マッシュの下に覗く、橘くんの涼やかな黒い瞳と目が合った。
その手には、出来上がったブドウソースの入った器とスプーン。
綺麗な紫色だ。
「まだちょっと熱いから気を付けて」
え……っ!?
た、橘くん……!?
橘くんはブドウソースをスプーンで掬うと、座っているわたしに目線を合わせるために、長身を屈めた。
すくったスプーンを当たり前のようにわたしの口の前に差し出す。
これを、このまま、食べなさいと?
そう言うことですか……っ!?
わたしはドキドキしながら、耳に髪を掛けて、目を瞑って口を開けた。
橘くんに食べさせてもらってる。
小さい子どもになったみたいな気分。
ドキドキしすぎて、味なんか分かんないよ……!
と、思ったけど、
「美味しい……!」
ジューシーで甘い、ブドウの香りが口中に広がった。
ブドウだ……。と思った。
市販のグミとかのブドウ味みたいに、作り物めいたブドウとは違う、本物のブドウの味だ。
やっぱり橘くんの作るものは、めちゃくちゃ美味しかった。
目を開けると、無表情のまま、ほんのり頬を染めている橘くんが居た。




