第21話 自分が本当に、心から笑いたい時に、笑ったらいいんじゃん?
「俺は、俺の作るもので西嶋さんが笑ってくれたらめちゃくちゃ嬉しいけど、それと、『愛想笑い』は、まったくベツモノじゃね?」
愛想笑い……?
「西嶋さん、いまのままで可愛いいし、無理して周りに愛想振り撒く必要とかないと思う。自分が本当に、心から笑いたい時に、笑ったらいいんじゃん?」
そんな……。
わたしは、橘くんの言葉に、素直に『うん』とは言えなかった。
それは、わたしがこの氷みたいな外見のせいで、今までどんだけディスられてきたか知らないから言えることだと思う。
「わたし、可愛くなんかないよ。いままで、『恐い』って言われることはあっても、可愛いって言ってくれる人なんて、ひとりもいなかったもん!」
ピンクやリボンの似合う可愛い女の子が心底羨ましかった。
いつも、氷点下な顔面と、自分の身長と長すぎる手足をもて余してきた。
そんなわたしのこと、『可愛い』なんて言ってくれる人は、誰もいなかった。
「目の前にいるのに?」
橘くんは長身を屈めてわたしの顔を覗き込んだ。
心臓を、鷲掴みにされたみたいだった。
右耳の四つのピアスが光る。
「『特定の誰か』じゃ、ダメなの?西嶋さんは、みんなから可愛いって思われたいの?」
橘くんの声は真剣だった。
カッコ付けたり、からかったりしてるわけじゃない。
胸にまっすく届く真摯な言葉だった。
そして少し、寂しそうでもあった。
わたしは思わず赤面してしまう。
そんな顔で言われたら……。
みんなから可愛いって思われたいわけじゃない。
そりゃ、好きな人に可愛いって、言ってもらいたいよ。
好きな人に、可愛いって言ってもらったら、嬉しいよ。
素直にそう言えたら、それこそ可愛い女の子なのかもしれないけど。
わたしは恥ずかしすぎて、思わず目を剃らして立ち上がった。
「あ、電車、来たよ……!」
「俺のワガママ、言ってもいい?」
橘くんは慌てたようにわたしの腕を取りながら言う。
「な、なに……?」
電車のドアが開くと、中には同じ高校の制服を着た学生もちらほら乗っている。
そんな中、右手と左手を繋いだまま、二人で乗り込む形になる。
わたしは恥ずかしさマックスでパニックになりそうだった。
「西嶋さんには、俺のお菓子で笑ってほしい。西嶋さんの笑顔、他のヤツらに安売りしないでほしい」
笑顔の、安売りって……。
それって……、橘くんのためだけに笑ってほしいってこと……?
そう言えばわたしも、橘くんみたいな強面で無愛想な男の子が、自分のためだけに笑ってくれたら最高じゃん……って、変な妄想繰り広げてた。
わたしは、いろいろ限界過ぎて、声を上げて笑ってしまった。
わたしたち、思考回路、まったく同じじゃん。
本当に、似た者同士だ。
「いや、今の笑うとこじゃないでしょ、なんで笑うの」
橘くん、怒ってる?
「だって、嬉しくて。橘くんといたら、嬉しくて、楽しくて、いっぱい笑える」
橘くん、大好き!
西嶋陽雨――氷姫脱却は、どうやらまたまた振り出しに戻りそうです。
***
「あ!カンジじゃん……と、西嶋さん!?」
最悪だ――駅から学校へ向かう途中、一番出会いたくない人たち=鮫島くんたちに出くわしてしまった。
「なに、二人でお買い物?上手くいってんじゃん、カンジおめでとー!!!」
なんか、めっちゃ祝福されてる……。
橘くん、片想い宣言してたもんね、たしかに。
この状況、わたしはいったいどんな顔をすればいいんだろう。
分かんない。
気まずい。
やっぱりこの人達苦手だーーー……。
「おまえら、いちいちうるせーんだよ!そっとしとくとこだろここは……!」
橘くん、通常運転に戻ってる。
さっきまでの橘くんとは完全に別人だ……。
「西嶋さん、逃げよ……!」
え、逃げるの?
橘くんはわたしの手を取って走り出した。
「あ!逃げんなカンジー!明日詳しく聞かせろよーーー!」
みんなの声が追い掛けてくる。
「ほんとごめん西嶋さん、あいつらめんどくさくて……悪気はないんだけど」
「うん、それは、めっちゃ分かる。鮫島くん、わたしのこと、『氷姫』って言わなかったし」
ただわたしが不器用なのがダメなんだよね……。
見た目こんなだからとか、どう思われるかとか、そんなことばっかり考えて、うまく立ち回れない。
もっとそつなくできるようになりたいよ。
橘くんは、いつも堂々としてて、カッコいいな。
わたしと違って、強面な自分のこと、ちゃんと受け容れてる。
自分の外見に振り回されたりしてないんだ。
わたしも、そんな風になりたい。
自分が本当に、心から笑いたい時に、笑える人に。




