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第20話 もっと愛想良くなりたいとか、可愛くなりたいとか……それって、ほんとに必要?

 ちょいワル店員さんは「何二人、息、ぴったりじゃん」と吹き出した。


「店長の中野です、ヨロシク」


 橘くんは店長さんと一緒に奥のレジへと歩いていく。


 れいのやつ入荷してるよ~と言いながら、店長さんが取り出してきたのは、なにやら銀色のパッケージに入った粉……?らしきもの二種類。


「ありがとうございます!」


 ちょいワルな店長さんと、強面こわもて橘くん。

 なんか、どう見てもヤバい取り引きにしか見えない構図こうずだ。

 この粉たち、いったい何なのだろう……。


かたも欲しいなって思ってたんすけど」


「そう言うと思って。いろいろ見繕みつくろってあるよん。やっぱシリコンが使いやすいよね」


 話にぜんぜんついていけないけど、店長さんが出してきてくれた、パステルカラーの「型」は、ハートとかお花とか、フルーツの形とか、すっごく可愛いかった。


「かわいい……」


 チョコとか、あめとか作るのかな。


「いいっすね」


 何種類かの型を買って、本日のお買い物は終了だった。


「その粉は、なに?ヤバい粉……?」


 帰り道、わたしは橘くんにたずねる。


「ヤバい粉って何だよ……。ペクチンと、こっちはクエン酸。クエン酸は分かるよね?レモンとかに入ってる酸っぱいやつ」


 正直よく分かんないけど、わたしは取りあえずふむふむとうなずいておく。


「ペクチンは……グミとかに入ってるいわゆるゲル化剤ってやつだよ。普通に買うとけっこう高いんだけど、店長さんにはいつもお世話になってるから、部活用って言ったら安く仕入れてくれるんだ。まーこのへんの人脈づくりはぜんぶ桜田さくらだのおかげだけど……」


「え……っとなんか、全然分かんないけど、何、作るの??」


「あーそっか……えっとね」


 橘くんは、駅までの大通りを歩きながらいろいろ説明してくれた。


 南町高校家庭科研究部の大きな行事は年間いくつかある。

 まず1つ目は、5月に開かれる地元小学校の運動会の景品用のクッキー。


「あ、もしかしてこないだ橘くんがたくさん抱えてたキラキラ小袋に入ったクッキーは、それ用だったの?」


「キラキラ小袋……?こないだ西嶋さんがばらまいたやつな。そう、それ」


 そっかー。お友達に配る用かと思ったけど、運動会の景品だったかー。

 たしかに、小学生ならあのオーロラ色のキラキラ小袋はテンション上がるかも。

 しかも入ってるのあんな美味しいクッキーだったら最高じゃん。


「次は、夏休み入ってはじめの土日に開かれる南町商店街の夏祭り。そこで、出店でみせを出すんだ」


「夏祭り!楽しそう……!最後に花火が上がるやつだよね」


 いつも一緒に行く相手が居なくて、友達や家族と行ったり行かなかったりだったけど、今年は橘くんと一緒だ……!


 幸せすぎる……!


「去年はシロップ手作りでかき氷をやったんだけど、今年はパートドフリュイをやりたくて」


「パ、パート……なに……?」


 また橘くんから知らない単語が……。


 わたし、こんなことで部員、つとまるんだろうか。

 出店の売り子って言っても、わたしみたいな顔面氷点下が居たらお客さん減るんじゃないかしら。


「パートドフリューイ。……ってのはえっと……デパ地下のスイーツとかにたまに売ってない?四角かったりフルーツの形だったりするひとくちサイズのカラフルなゼリー」


 橘くんはスマホで調べて画像を見せてくれた。


 ほんとだ。

 なんか見たことある。

 まわりにお砂糖がくっついてるやつだ。


「これ、自分で作れるの?めちゃくちゃお洒落だね」


「単価高いから出店で売るの大変かもなんだけど、入れるケースとかもお洒落な感じにしたら、値段張っても売れるかもと思って」


「いいね!宝石箱みたいなのとか、ペンダントの形にするとか、いろいろ出来そう。なんかワクワクする……!」


「まずは、果物のピューレを作んないといけないんだよね。夏までにまず何種類かピューレ作って、そっからゼリーの試作……忙しくなるよ」


 橘くんはやっぱり楽しそうだった。

 ほんとにスイーツが好きなんだな。

 クラスでの顔と全然違うもん。


 駅のホームに着いて、二人でベンチに座る。


「橘くん、ありがとう。誘ってくれて。わたし、橘くんのおかげで、最近、毎日楽しい。わたし、自分の顔がコンプレックスで、人前で笑うのも苦手で、そのせいで好きだった人にはフラれちゃうし、散々だったけど……橘くんのおかげで、変われそ うな気がする。わたし、頑張るね。もっとクラスのみんなの前でも、愛想よくしたり、ニコニコ可愛い女子になれるように……」


「西嶋さんさ、1コだけ、いい?」


 さえぎるように言った橘くんの声が、先ほどまでとは打って変わって急にトーンダウンしたので、わたしは戸惑とまどってしまった。


「な、なに……っ?」


「その『もっと愛想良くなりたい』とか、『可愛くなりたい』とか……それって、ほんとに必要?」


 え……?

 橘くんの静かな瞳に見詰められて、わたしは戸惑ってしまった。

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