第19話 最近のわたし、毎日ワクワクときめいてる。
ぴょこん。とスタンプが送られてきた。
何これかわいい~。
ゆるっとした手書き風の苺ショート。
スタンプまでゆめかわスイーツなんだね。
わたしはよろしくペコリのスタンプを送り返した。
ほんの数週間前まで、クラスの『なんか恐い人』だった橘くんと、かわいいスタンプ送りあってるって、なんか不思議。
最近のわたし、橘くんのおかげで、毎日ワクワクときめいてる。
「橘くんは、どうして部活なの?」
「ん……?」
「いや、お菓子づくりって、別におうちでできるし、逆に橘くんぐらい本格的だったら、専門学校とか、行けそうだし、なんか、家庭科研究部って、意外って言うか……」
「あー……それ、聞いちゃう?」
橘くんは、言いにくそうに口ごもった。
「この部活、アヤノが俺のために作ってくれた部活だから」
「え……っ、そうなの?」
「俺、子どもの頃からずっと、クッキーとかケーキとか、お菓子づくりが趣味だったんだけど」
『お菓子づくりが趣味』……橘くんの口から聞いたらやっぱツボ……笑ったらダメだけどやっぱツボ……
「さすがに子どもが勉強もしないでひたすらスイーツ作ってたら心配になったみたいで。高校受験を機に全部禁止にされて……」
わたしは橘くんの話に、緩みかけていた口元を引き締めた。
「両親、普通に会社勤めのサラリーマンだし、当然高校は普通科に行くもんと思ってるし。たしかに親からしたら、ゲームもマンガも買わずに、小遣い全部製菓材料に注ぎ込んでたらコイツ大丈夫かなって心配するわな……」
たしかに、お菓子づくりって地味にお金かかるよね。
バレンタインチョコのキットとかもめちゃくちゃ高いし。
いろいろ調理器具とかも必要だろうし。
でも、お小遣い全部注ぎ込んでた……って、どんだけの情熱なの?
それだけ一途にやってきたからこその、あのクオリティなのか……。
すごいなー橘くん。
わたしにはそんな風に、情熱傾けられるモノってないな。
なんか、憧れる。
「それで今の高校、無事受かったんだけど、不憫に思ったアヤノが、そんなら部活にしちゃったら……?って、俺が入る前にうちの高校に部活作ってくれて……って、この話、キモくね?おねーちゃんに部活作ってもらうとか……西嶋さんには知られたくなかったんだけと……恥ず……」
「ぜんぜん恥ずかしくないよ……!こないだも思ったけど、アヤノさん、めっちゃいいお姉さんじゃん!大好きなんだよ、橘くんのことが!」
あの時の、愛情溢れるアヤノさんの表情、見せてあげたいぐらいだ。
思わず勘違いしちゃったぐらいだもん。
羨ましいな。
アヤノさんは、橘くんが一生懸命お菓子作るちっちゃい男の子だった時から、大きくなってピアスだらけになっちゃった時も、全部見てきたんだよね。
わたしもちっちゃくて可愛い男の子だった橘くん、見てみたいよ。
絶対可愛いし。
「まあ、出来たねーちゃんでは、あるよ」
橘くんは照れたように笑った。
そんな橘くんも、可愛いかった。
橘くんのこと、いっぱい知れて嬉しい。
もっともっと知りたい。
***
着いたところは、駅前の大通り沿いにあるお洒落なビルだった。
縦長のクリーム色のビルの1階から5階までがぜんぶ製菓用品のお店。
1階はガラス張りで、可愛い格子窓の付いたドアを開けると、ずらっと製菓材料が並んでいた。
上品なマダムや子ども連れのお母さん、女性客が大半で、強面ビックサイズ男子高校生の橘くんは、明らかに浮いている。
そのうえ感じ悪い女子代表のわたしもセットだったら、何しに来たんだ君たちとか思われてそう。
みなさーん、この人、こんな人相してるけど、すっごく可愛くてほんとに美味しい激甘スイーツ作るんですよ~って、宣伝して回りたいぐらいだ。
「すごーい。小麦粉ってこんなに種類あるの?知らなかった」
わたしは初めて足を踏み入れたお店の中で、製菓材料の種類の多さに圧倒されていた。
スーパーの材料売り場とは大違いだ。
小麦粉なんて、強力粉と薄力粉の二種類ぐらいしかないものと思っていたけど。
「スイーツも材料で全然、味、変わるからね。小麦粉は、灰の含有量が少ないほど高級で等級が高いって言われるけど、単に灰が少なけりゃいいってもんでもないし、多い方がアジが出て良かったりするし……」
「は、はい……?」
スイッチが入ったように小麦粉について語りだす橘くんの話は、半分も理解できなかったけど、
好きなことについて語る橘くんの表情はキラキラしていた。
橘くんキラキラしてる。
ずっと見てたいぐらい。
「お、カンジー。待ってたよ~」
すぐにカフェエプロンを付けたちょいワルっぽいおじさまに話し掛けられる。
店長さんかな。顎ヒゲがお洒落。
「って、あんまり見たことない女の子だね、もしや彼女?」
「「いえ、新入部員です」」
わたしと橘くんの声が重なった。




