第17話 橘くんはいつも、わたしを助けてくれる。 氷姫の、救世主だ。
一緒に戻るの、ちょっと恥ずかしいな。
橘くんは、恥ずかしくないのかな。
橘くんと一緒に学校の廊下を歩いてる。
ただそれだけなのに、わたしの心臓はバクバクと暴れっぱなしだった。
みんなに見られているような気がしてしまう。
橘くんは、そんなことなんとも思ってないみたいに、わたしの前を黙ってすたすたと歩いていく。
橘くんは、いつも堂々としてて羨ましい。
自分の思ったことも、まっすぐ口にするし。
見た目、恐いのに、周りに男子が集まってくるの、なんか分かるかも。
信頼できるというか。
無言の優しさというか。
無言の包容力……みたいな感じ。
おっきくて、安心感あるし。
ガラガラ……橘くんがホームルームの扉を開けると、橘くんの席の周りに集まっていた男子たちが、一斉にこちらを向いた。
「カンジ、遅かったじゃん。どこ行ってたの……って、氷姫!?」
やっぱり……そうなるよね。
別々に入れば良かったよ……。
わたしはどうしたらいいか分からなくて、居たたまれなくなって固まってしまう。
「氷姫、だいじょーぶ?かお、凍ってるけど」
鮫島くんは、いつも通りの悪ノリ……。
いや、わたしの顔が凍ったの、あなたのせいなんだけど……。
「つか、こないだもカンジ、なんか西嶋さんのこと庇ってたけどさ、まさか二人、付き合ってる?」
「えーーーーまじか、この二人付き合うとか、絵面、恐すぎてヤバいでしょ。いや、むしろお似合い?」
つつつ、付き合ってないし!
なんで男子はすぐそういう話にしたがるかな。
橘くんも困ってるじゃん。
「ヤバっ、氷姫に睨まれた~凍る~」
「おまえら、『氷姫』はやめろっつったろ」
やば。怒りバージョンの橘くんだ。
橘くん、負のオーラ出てるよ……!
恐いよ……!
「付き合ってねーよ」
橘くんは、男子たちの間を掻き分けてガツンと席に座った。
身体が大きいので、それだけで大迫力だ。
「……つーか、俺の片想いだから。やめてくんない?そう言うめんどくせー絡み。『氷姫』も、今日から禁止な」
しん――と鎮まりかえる教室。
え、えええーーーーーーーーー!?
「え、カンジの片想いなん!?なにそれ、エモ……!」
男子たちが一斉にざわつき始める。
正直、わたしが一番びっくりして、完全に身体中固まって、氷姫になって席に着いた。
「ちょっとひさめ、何がどうなってんの?」
穂乃花が後ろからこそこそわたしに話し掛ける。
「わ、分かんないよわたしも」
橘くんとは、お菓子を食べさせてもらったり、部活誘われたり、そんな話をしてただけのはずだったんだけど、いつの間に……そんな話に?
しかも、橘くん、片想い……って、
それって、つまり、わたしのこと好きってこと……?
橘くんがわたしのこと好きって、そんなこと、ある……?
いやいやいやいやいやいやいやいや……!
冷静に考えると、さっきのアレは、わたしのことを庇うための方便かもしれない。
橘くんがああやって言えば、これから鮫島くんたちがわたしに変な絡みしてくることもないだろうし、『氷姫』って呼ばれることも、なくなるかも。
そう考えたら、そうとしか思えなくなってきた。
橘くんは、『片想い』って言葉で、わたしを守ってくれようとしたのかも。
やっぱり橘くんは、かっこいいな。
あんな時、みんなの前であんな堂々と『片想い』とか、言えないよ。
それに……優しい。
橘くんはいつも、わたしを助けてくれる。
氷姫の、救世主だ。




