第16話 俺のことなんだと思ってんの、普通の人間だから。
「家庭科研究部、入りませんか!?」
……えっ?
てっきり、わたしの彼氏に近付かないでって言われるのかと思ってたのに。
予想とは真逆のことを言われて、わたしは反応に困った。
「あんなカンジ、はじめて見たんだよね。端から見たら、いつも通りの仏頂面かもしれないけど、明らかに張り切ってて。カップケーキのデコも、気合い入りまくりだったし」
張り切っててって……それは……わたしのために?
わたしの胸に、ふわりと何か、暖かい気持ちが湧いてきた。
「カンジって、見た目あんな感じじゃん?知らずに入った人からしたら、『お菓子づくりとか似合わない』とか、『イメージ崩れる』とか、基本マイナスのことしか言われないから……そのせいで、親にも反対されて、一時、お菓子づくりやめちゃったこともあるぐらいで。だからね、嬉しかったんだと思う。あんな風に、西嶋さんに喜んでもらえて」
わたしの心の中に、橘くんがふと見せてくれた笑顔が咲いた。
わたしも、嬉しかったな……橘くんの笑顔が見られて。
「だからね、カンジのためにも、良かったら、部活、入ってくれないかな……!」
それは、分かるんだけど、でもこの人、何でわざわざそこまで……?
その時だった。
お弁当を広げる私たちの背後に、巨大な塗り壁が現れたのは。
た、橘くん……っ!?
「アヤノ……なに勝手に適当なこと話してる……」
橘くんからいつもの負のオーラが放たれている。
顔が、恐いよ……っ。
怒ってるよ……橘くん……っ。
「アヤノが西嶋さんを連れてったって聞いたから探しに来てみれば……」
「感謝しなよね、勧誘だよ勧誘!西嶋さん、家庭科研究部にスカウトしてたとこなんだから……!」
アヤノさんは、ニコニコしながらわたしに身体を近付けて、親しげに肩を寄せながら言う。
「カンジも、嬉しかったんでしょ。氷姫の、可愛い笑顔が見れて」
橘くんはむすっとした顔をして、わたしたちの前に立った。
「俺のセリフを奪うなバカ姉貴……!」
えっ……バカ姉貴……?
わたしはびっくりして二人の顔を見比べる。
そう言えば、睫毛の長い綺麗な目が似てるかも。
アヤノさんって、橘くんのお姉さん!?
び、美形姉弟だ……!
「ごめんねー、そう言うことで、邪魔モノは退散しまーっす……!」
アヤノさんがピューっと走って行ってしまったので、わたしはどぎまぎした。
橘くんと、二人きりになっちゃった……っ。
しかも、橘くん、怒ってるし……。
「あーーーーーークソダセーーーー……」
橘くんは頭をぐしゃぐしゃ掻きながら、わたしの隣に座った。
「アヤノの奴、マジで余計なことしてくれるよな……」
怒ってるのかと思ったら、なんか、落ち込んでる……?
「自分で言わなきゃなんないこと、おねーちゃんに言ってもらってるクソダサい弟の図、じゃね?これ、完全に……」
橘くんは落ち込んだ姿勢で頭を抱えたまま、顔だけわたしの方を向いて言った。
そんな橘くんも可愛い。
「西嶋さん」
橘くんはふと真面目な顔になって言った。
な、なに……?
どうしよう、急にそんな顔されたらドキドキしてしまう。
「良かったらまた、俺の作ったもの、食べてもらえませんか」
そんな……。
何でなんだろう。
何で橘くんは、わたしなんかのために、こんなに一生懸命になってくれるんだろう。
「わたし、よく考えたらかなり気持ち悪いこと言ってたし……って言うか、気持ち悪いことしかいってないし、まさか、橘くんにそんな風に思ってもらえてるなんて思わなくて……」
「いやいや、普通に嬉しいよ。俺のことなんだと思ってんの、普通の人間だから。自分の作ったもの、あんな旨そうに食ってもらえて、しかも『泣くほど美味しい』とか言ってもらえて、喜ばない人間いる?」
普通の人間……!
そうだよね……。
わたしってば、橘くんのこと、見た目だけで恐そうな人って、先入観だけで勝手に決めつけてた。
わたしのこと勝手に『氷姫』って呼ぶ人たちと、同じことしちゃってるじゃん。
「ありがとう、わたしも、そう言ってもらえて嬉しい……!」
また、橘くんのお菓子、作ってもらえるんだ。
その時、昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴った。
「うわ、ヤバっ!もうこんな時間?次の授業なんだっけ……!教室、戻らなきゃだね」




