第15話 この人も、橘くんのことが、ほんとに好きなんだな。
橘くんのお菓子を山盛りもらった日の翌日。
わたしは昼休み、思いもよらない人から呼び出しを受けた。
「ねえ、ひさめ、……何かした?」
穂乃花が本気で心配したような声でわたしを呼ぶ。
「な、なに?何の話?」
「いや、西嶋陽雨を呼んでって、めちゃくちゃ美人の上級生が来てるんだけど、なんか、めちゃくちゃ真剣な顔してて、恐い……」
めちゃくちゃ美人の上級生って……。
しかもめちゃくちゃ真剣な顔って……。
心当たりが一人しか居なくて、わたしは心臓をバクバクさせながら廊下へ向かった。
やっぱり。
そこには、あの黒髪ゆるふわデキる系おねえさん、アヤノさんが立っていた。
もしかして、昨日、橘くんと靴箱で話してたの、見られてたのかな……。
この人、やっぱり橘くんの彼女さん……?
わたしの彼氏に近付かないで的な忠告かな……。
わたしは橘くんの様子を伺ったけど、橘くんはまったく気付いていない様子で、いつも通り鮫島くんたちとお弁当を食べている。
「西嶋さん。ちょっと……話したいことがあるんだけど。お昼一緒にどう?」
お、お昼を、ご一緒に……っ!?
いきなりハードル、高くないですか!?
わたしは心の中で汗をダラダラ流しながら、拒否ることもできず、お弁当箱を持ってアヤノさんについていった。
「ここ、いいでしょ。日陰だし。いい感じのベンチあるし」
たしかに。
いままで気が付かなかったけど、中庭にこんな場所、あったんだ。
5月も半ばを過ぎると、少し暑くなってくる。
緑の葉の繁る桜の木がありがたかった。
「あっ、お弁当、食べてね。わたしも食べるし……って言うか、クス……西嶋さん、噂通り、黙ってると……ほんとに……」
黙ってると……ほんとに……?
ほんとに、なに?
いま、変なところで語尾、濁したけど、氷姫って言おうとしたでしょう絶対……。
「ごめんごめん」
アヤノさんはニコニコ笑いながら言う。
わたしの心がまたずきりと痛む。
わたしにはできない、朗らかな表情。
すごく、魅力的な人だな……って、思ってしまう。
こういう人を見てたらわたし、ますます氷姫な自分が嫌になる。
「カンジの話、西嶋さんとしたいなって思って」
わたしは身構えた。
やっぱり、橘くんの話をしに来たんだ。
「カンジ、お菓子づくりにはまったの、私の影響なんだよね。今はあんな感じだけど、昔はもっと背もちっちゃくて、可愛げある感じだったんだよ」
アヤノさんの言葉に、わたしの胸がまた痛む。
前に会った時も思ったけど、この人と橘くんとの距離感って、部活の先輩後輩って雰囲気じゃない。
『昔はもっと』って……ずいぶん橘くんのこと、よく知ってるんですね。
幼馴染みとかなのかな。
幼馴染みマウント?
わたしの心は、どんどんもやもやしてくる。
「昔は私のやること、何でも真似したがってさー。まあ私の方が年上だからしかたないんだけど、たいてい私の方が上手くて。……でも、お菓子作るのだけは違ったんだ。天性の才能?って言うのかな。私が飽きちゃっても、カンジは飽きずにずーっと、何回も何回もやってて。自分の手の中から、可愛くて、美味しいものが生み出されていくのが、すごく楽しいみたいで」
にこやかに話すアヤノさんの横顔が、楽しそうだった。
この人も、橘くんのことが、ほんとに好きなんだな。
「西嶋さん。あなたに、お願いがあるの」
睫毛の長い、ぱっちり二重の綺麗な黒目がわたしを真剣に見詰める。
で、出た……っ。
幼馴染みマウントからの、
わたしの彼氏に、近付かないで……ってやつでしょ?




