第1話 西嶋さんさ、もうちょっとニコニコ愛想良くしたらいいと思うんだけど。
2年1組出席番号23番。
わたし――西嶋陽雨は、本日盛大に、フラれました。
1年生の時、同じクラスだった男の子。
1年生の時は勇気が出なかったけど、クラスが別々になって、話す機会もなくなっちゃって、彼女がいないのは知っていたから、このまま誰かに取られるくらいなら……。
そう思って、人生最大級の勇気を振り絞って告白したというのに。
彼――吉木梓くんは、悪びれもせず言ってのけたのだ。
「ごめん、俺、好きな人いるから……って言うか、俺が言うのもなんだけど、西嶋さんさ、もうちょっとニコニコ愛想良くしたらいいと思うんだけど。そしたら『氷姫』とか言われないし、もうちょっと……モテるんじゃない?」
自分の体が、氷のように冷たくなっていくようだった。
『氷姫』――それは、1年生の時に陽雨に付けられた不名誉なあだ名だった。
睨んだ相手を目力で凍りつかせる恐ろしいお姫様なのだそうだ。
「私だって、好きでこの顔に生まれたんじゃないのに……っ!」
気付いたら、大声を上げていた。
吉木くんに背を向けて走り出す。
二人が居たのは、ホームルームのある教棟の階段の最上階だった。
四階分の階段を一気に掛け降りる。
わたしだって分かってる。
ニコニコしてた方が人間関係円滑に進むってことぐらい。
だけど、いざ笑おうと思ったら、顔が引きつってしまうのだ。
生まれつきキツネみたいな奧二重のツリ目で、黙っているだけで怒ってると思われるし。
性格キツそうとか言われるし。
頼んでもないのに身長は中学三年間ですくすく育って170センチ超え。
わたしに可愛い服や可愛い仕草は似合わない。
だから、ニコニコ愛想を振り撒くのが苦手で、高校入学当初にそういうキャラ付けがされてしまってからは、余計に人前で笑うのが苦手になっていた。
笑顔が「気持ち悪い」と思われるんじゃないか、そう思うほどに、顔はよけいに引きつってただただ悪循環。
気付いたら、目が合っただけで、『氷姫』と怖がられるしまつ。
どうせわたしなんか……。
気付いたら涙が滲んでいて、わたしはうつむいて目を擦りながら階段を降りていた。
だから気が付かなかったのだ。
階段から廊下に出る出会い頭、突然真っ黒い塗り壁みたいなものが目の前に現れて、避けきれずに思いっきり体当たりしてしまった。
なっ、なに……?
何やらキラキラした光が視界の周りに散らばっていく……
塗り壁はふわりとわたしの体を抱き留め、何やら甘い香りが……
何この匂い、美味しそう……
美味しそうな匂いに釣られて目を上げると、
ええ……っ!?
うわっ、やばっ!橘くんじゃん……!
着崩した学ラン。
180センチはあるだろうという巨体に、無造作に眉毛のラインを隠す真っ黒なマッシュヘア。
耳には痛そうなぐらいたくさんのピアスが並んでいる。
終わった……。
ぶつかった相手はクラスで一番の不良で、不良は不良でもいわゆる一軍陽キャタイプの男の子とかじゃなくて、負の威圧オーラを放ちまくっている近寄りがたいタイプの男子。
「わるい」
冷たい目で見下ろされ、ぼそりと呟かれる重低音。
こわい、こわいこわいこわい恐すぎる……!
わたしの高校生活終わったかも。




