自転車のペダルが盗まれたので、歩いて年賀状を買いに行く
自転車のペダルが盗まれた。サドルならよく聞く話だけど、ペダルというのは珍しいと思う。しかも僕の自転車は近所のホームセンターで買ったママチャリで、安物だ。
盗まれた現場は、実家の庭先。
「綺麗にとれてるね」
ペンギンのぺんぺんが、現場検証をしている。
「工具を使わないと、とれないだろう?」
「そうだね」
誰が盗んだのだろう。
なんだってペダルだけ……。
「年賀状を買いに行かなきゃならないんだ」
「ボクも一緒に行くよ、キミと散歩したいから」
「そう? それじゃあ、一緒に行こうか」
ぺんぺんと散歩なんて久しぶりだ。
「もう12月27日だよ」
「う……わかっているよ、毎年、差し出し期限を過ぎちゃうんだ。もうやりとりがあるのは高校の先生くらいだよ。他はみんなスマホでね、スタンプ送るだけだったりね」
「ボクに書いてよ」
「ぺんぺんとは年末年始、ずーっと一緒じゃないか」
「でも、おやすみが明けたら帰っちゃうんだから。そのあとが問題なんだよ。ゴールデンウィークまで長いんだから。
キミから貰ったものを眺めたいんだよ」
「じゃあ、似顔絵か何か、描いてあげるよ」
「似顔絵より、年賀状が良いんだよ。お隣りのおばあちゃんと見せ合いっこするんだ。毎年、おコタで年賀状を一緒に見るんだ」
「わかったよ、2枚買うよ」
家もまばらな地域を歩きながら、ぺんぺんは嬉しそうに話をする。翼をパタパタとはためかせながら。近所の犬のコロンちゃんに恋をしているとか、そういう話だ。
郵便局で年賀状を2枚買って帰る。
ガラガラと玄関の引き戸を開ける。
「ああ寒かった」
「人間には羽毛がなくてかわいそうだね」
「君たちの羽毛はすごく優秀なんだ」
「でも寒かったなら、自転車に乗らなくて良かっただろう?」
ぺんぺんが申し訳なさそうにそう言うのを聞いて、ピンときた。
昔、妹のミクと2人で作った、玄関脇のぺんぺんハウスを覗き込むと、あったか毛布の上に、大事そうにぼくのペダルが2つ、揃えて置いてあった。
「でも、ぺんぺんの翼じゃ……どうやって?」
ミクがやってきて、ぺんぺんとパータッチをしている。なーんだ、身内の仕業か。心配して損したよ。
「ごめんね」
ぺんぺんは翼をすくめたけど、ぺんぺんに構わなすぎた僕のせいでもある気がした。
丁寧に年賀状を書いて、ぺんぺんに渡した。
ぺんぺんは家族全員から年賀状をゲットして、ほくほくしていた。
「もちろん、キミのが一番お気に入りだよ」
と、あとでこっそり教えてくれた。




