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最強魔法使いは異世界から帰りたい(リライト版)  作者: やまだ ごんた


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33/39

32.

「なるほど――やっぱりそうか」

 シゲルが一通り説明し終えると、カインは納得したようにうなずいた。

「閣下は僕がこの世界の人間じゃないって気付いていたんですか?」

 シゲルは驚いて尋ねた。

「さすがに別の世界から来たというのは驚いたさ。でも、同時に納得もした。君の魔力は私が今まで見たことのないほど異質なんだ」

 カインはパージが出した茶を飲むと、続けた。

「――つまり、魔力というものは魂と結びついているのは君も知ってるね?魔力というのは人によって個性があるんだよ。澱んでいたり、澄んでいたり、そこのアーノンやパージのように力強さがあったりね。だが、君にはそれがない。まるで草や木のような感じなんだ」

 カインの青い瞳に見つめられて、シゲルはどことなく居心地が悪かった。責めているわけでもなければ、疑っているわけでもない。ただ、自分の奥底を観察されるような、そんな気分だった。

「それは俺達も感じていた――まぁ俺達は初めから事情を聞いていたから、そんなもんかと思っていたんだが」

 アーノンが言うと、カインは一瞬だけ呆気にとられた表情をしたが、すぐに吹き出してしまった。

「君たちは随分と鷹揚なんだな――シゲルくんがアベル王子の現身だとしても、全く気にしないように見える」

「なんでそれを――?」

 シゲルは思わず口にして、しまったと思ったが遅かった。

「この本を村長から借りてきた。同じような内容の言い伝えがエスクード侯爵家にもある」

 カインが荷物から取り出したのは、シゲルがオスカーの家で見た緑の革の本だった。

「ここに、アベル王子の伝承がある――ここ以外は古代語で書かれているから読めないが、ここを見て欲しい」

 カインが開いたページには、古代語に混じって、今もこの世界で使われている文字が書かれてあった。

 

『王子の肉体はそこには無く、しかし魂はその場所に捉われたまま御座した。王子は私に申された。異世より現れるその身が王子を解き放つと』


「この書を書いたのは、おそらく私の祖先であるジュノア・エスクード初代侯爵だ」

 カインの言葉に全員がカインを見た。

「ここの記述を見てほしい」


『王子の死後、世界は魔力に包まれ、魔力に適応できない者は死に絶えた』

『王を止められなかった私に唯一できるのは、魔力の根源たる王子を止める事』


「エスクード侯爵家は、初代アストン王との誓約により、王家を監督する立場にあった。王に提言し、断罪できるのはエスクード侯爵家のみ――その責任を果たそうとしたのだと思う」

 カインの言葉は正しいと思われた。

 本に遺された魔力は、カインの魔力によく似ていたからだ。

 シゲルは、その本に書かれた内容を読んだ。


 

 王子の魔力暴走によって帝国が滅び、戦争は終わり王国に平和が訪れたかのように思えた。

 しかし、それは仮初の平和に過ぎなかった。

 王子の死後から15年が経とうとした頃から、王国では謎の病によって幾多もの死者が相次いだ。

 初めに倒れたのは皇太子殿下だった。

 年若い皇太子殿下は、胸が苦しいとおっしゃった数日後にお亡くなりになった。

 次に王妃が倒れられた。

 トバル王が崩御なされた後、アベル王子の御子であるセツ王子が王位に就かれた。

 30年の間に、王国の民は半数以下になってしまった。

 同時に、他国でも同様の事象が起きるようになっていた。

 50年が経った頃、ようやくそれがアベル王子の魔力によるものと気が付いた。それまで気が付かないほどに、ゆっくりとしかし確実にアベル王子の魔力は世界を包み込んでいた。

 魔力に適応できない者は、身に馴染まぬ魔力に蝕まれ次々と死んでいった。

 初めに適応したのは植物、そして、動物だった。

 森は魔力を含み、やがて人の住めない土地へと変貌したが、そこに住む動物たちはいち早く魔力を持つ生き物へと進化を遂げた。

 魔力を持つ獣たちと魔力を持たない人間は、立場が逆転してしまった。

 獣はいつしか魔獣と呼ばれ、人の生活を蹂躙し始めた。

 住む土地を追われ、命を脅かされ、100年が経とうとする頃には大きく数を減らした人々は、小さな集落で寄り添い生きるので精一杯だった。

 アベル王子の魔力を受け継いだセツ王と、その子らは、人々に魔力の扱い方を教えて回った。

 しかし、それでも魔力を持たない人々は魔力に耐えられず死んでいった。

 僅かでも魔力を持つ者達は、その血を絶やすまいと子孫を育んだが、それでも魔力と魔獣は人々を襲うことをやめなかった。

 100年前とは全く様相の違う世界がそこにはあった。

 これを止める為には、大森林に行かなくてはならない。

 トバル王を止められなかった私に唯一できるのは、魔力の根源たる王子を止める事だけだ。


 帝国の首都があった場所は、たった100年しか経っていないと言うのに、深い森に変貌していた。

 かつての栄華は見る影もなく、昼なお暗く木々に覆われ、見た事もない獣達がアベル王子を守るように徘徊していた。

 私がその場所に到達すると、王子の肉体はそこにはなく、しかし魂はその場所に囚われたまま御座した。

 私にはアベル王子の魔力を止める事はできなかった。

 だが、アベル王子は私にある預言を下された。

 王子は私に申された。異世より王子の身が、王子の魂を解き放つと。

 私は悟った。

 人類は粛清を受けたのだ。

 諍いを重ね、戦を繰り返した人類は今まさに罰を受けているのだろう。

 だが、再び立ち上がる時、世界は全く異なった発展を遂げる。その世を迎えるために、私は成すべきことを成さねばならない。

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