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最強魔法使いは異世界から帰りたい(リライト版)  作者: やまだ ごんた


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29.

 シゲルたちは、カインに遅れて到着した騎士隊によって樹海から運び出された。

「信じられない。すぐ近くに着いて来ていたなんて」

 魔力によって気を失っていただけのシルヴィアは、運び込まれた小屋で目を覚ますと、騎士隊から事情を聞いてひどく立腹していた。

 カインが目を覚ますなり、ベッドの横に座って文句を言っている。

「でもな、シルヴィア。邪魔立てするつもりはなかったんだ。君達が危なくなったら手助けするつもりで」

「それ!それが信用してないってことなの」

 シルヴィアはカインの言い訳に嚙みついている。

「アーノンもよ。私に黙っておじいさまと連絡を取っていたなんて」

「エスクード侯爵家の大事なお嬢さんを預かるんだ。連絡は常に入れるさ」

 パージが呆れたように言うと、シルヴィアは唇を噛んで黙った。

 パージとアーノンは、驚いたことに傷が全て塞がっていた。

 血と魔力をかなり失っていたことで、数日間の休養は必要だと騎士隊の医師に言われたが、目が覚めると普通に立って歩いているのを見て「さすがはアソンのハンターだ」と全員が驚いていた。

「私は、カイン・エスクード。シルヴィアの曽祖父にあたる。アーノンとは先日も会ったが、君達とは初めましてだな」

 改めて言われても信じられないと、シゲルは呆然とカインを見た。

 シゲルが見たこともないくらいの美貌はもちろん、魔力量がとてつもない。

 今のシゲルと同等か、下手をしたらそれ以上の魔力だ。

 そう考えると、曽祖父といいつつこの外見なのは理解ができた。

 まるで――のようだ。

 ふと、誰かの姿が頭をよぎったが、すぐに消えてしまった。

 僕は今誰を思い出したんだ……

「どうした?」

 パージの声で我に返ると、シゲルは慌ててカインを見直した。

「年の離れた兄妹って言われても通用しますよね」

「ありがとう。でも、私はこれでも今年で96になる。立派な老人だ。労わってくれたまえ」

 よくわからない記憶に困惑してついこぼれ出た言葉だったが、カインが気さくな笑顔で答えた。

 実年齢を聞くと、尚更信じられない気持ちと納得する感情が入り混じる。

「樹海での報告は屋敷に戻ってから聞こう。明日は移動だ。みんな体を休めるように」

 カインの言葉に、全員が頷いた。


 翌日、ほぼ回復した一行は騎士隊と共に昼を過ぎた頃にシニストロ辺境伯の屋敷に到着した。

 屋敷にはシニストロ辺境伯とシニストロの町の町長が、一行を出迎えた。

 アーノンとシゲルから経緯を説明すると、カインは少し考え込んでから、口を開いた。

「君達も知っていると思うが、エスクード侯爵家とバロッティは因縁浅からぬ関係にある」

 王国でも公国でも有名な話だということは、夜のうちにアーノンから聞かされていた。

 その話はとても複雑だったが、とても因縁めいた話だった。

 

 公国の貴族だったバロッティ伯爵が、王国の五大侯爵家であるアバルト侯爵家の令嬢を手に入れようと策を練り、没落寸前まで追い込んだ。

 家門を立て直すための助け舟を出す代わりに令嬢を寄越せという、バロッティ伯爵の要求を跳ねのける手助けをしたのがエスクード侯爵家だった。

 同時に、アバルト侯爵家を没落寸前まで追い込んだのがバロッティ伯爵だったという事実が暴かれ、バロッティ伯爵は処刑された。

 しかし、話はそれで終わらなかった。

 隠し子であるミケロ・バロッティによって、エスクード侯爵家がその復讐を受けた。

 幾度となくカインは死の淵まで追い込まれたが、最後にミケロ・バロッティは捕らえられ、バロッティ一族は公国の北にあるノクトの村に幽閉されることになった。

 吟遊詩人によって今も物語として語られ、王国だけでなく公国でも有名なのだと教えられた。

 アンジェロの青みがかった黒い髪はバロッティ一族の特徴を色濃く受け継いでいるのだと聞いて、ようやくシゲルはこの世界に来た初日に自分を見た村人から「バロッティ」と言われた意味を理解した。


「アンジェロという男については、こちらで調べよう。テオ・オヴィーについてはあの男の言うことを信じるのならあれで全てか」

 カインの言葉に、シニストロ辺境伯も町長も頷いた。

「確証は持てない。だが、他にもいるのならあの場で殺す必要はないだろう」

 アーノンの言葉に、その場の全員が納得した。

「警戒は続けるように。あのアンジェロという男がバロッティなら、ノクトの監視はどうなっている」

 カインはそう言うと辺境伯に視線を向けた。

「ノクトの村については、昨日のうちにロワイヤのブライトン伯爵家にホルクを飛ばしていますから、数日以内には何かしらの報告が入ると思われます」

 辺境伯が言うと、カインは満足したようにうなずいた。

「それで、君達だが――」

「テオ・オヴィーの討伐が完了したので、明日にでもここを発ちたいと思ってます」

 アーノンが言うと、カインは意外そうな顔を見せた。

「あの男はそこの少年に随分と興味を抱いていたようだが」

 少年、と言われてシゲルは少しばかりムッとした表情をみせた。

 やっぱりこの世界ではシゲルは子供に見えるようだ。パージよりも年上なのに。

「シゲルは少年に見えますが、一応立派な大人です。あの男がシゲルを狙っているのなら、尚更ここよりはアソンの村の方が安全です」

 アーノンの言うことは尤もだ。

 大森林に隣接するアソンなら、普通の人間は近寄ることもできない。

 もし襲ってこられたとしても、村にはエイクを始めとした屈強なハンターが大勢いるのだ。下手に手出しはできないだろう。

 それに、戻ったらすぐに大森林に出発する予定は変わらない。

 昨夜もアーノンとはその話をしたところだった。

「アソンか――」

 アーノンの言葉に、カインまた少し考えてから「なら、私も行こう」と言った。

「は――?」

 呆気にとられたのはアーノンだけではない。

「何を言ってるんです、おじいさま」

 どう見てもカインより20は年上に見える辺境伯と町長がカインを祖父と呼びながら慌てて腰を浮かせるのを見て、シゲルは不思議な気持ちになったが、今はそんなことを考えている場合ではない。

「一体何のために」

 アーノンが困惑を隠せないでいると、カインはその美しい顔をにやりと歪ませた。

「昨日、君達の話を聞いてしまったんだ――大森林に行くんだろう?私も行きたいと思ってね」

 何を言ってるんだ、この人は。

 そう思ったのはシゲルだけでなく、きっとこの場にいる全員だったに違いない。

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