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最強魔法使いは異世界から帰りたい(リライト版)  作者: やまだ ごんた


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28.

「初めまして。カイン・エスクード元侯爵閣下。私はアンジェロ――バロッティの名は捨てたので、ただのアンジェロと覚えておいていただきたい」

 アンジェロは妖艶な笑みを浮かべて、恭しく礼をするが、カインは険しい表情のままアンジェロを睨んだまま、腰から下げた剣を抜いて構えた。

「ひいおじいさま」

 シルヴィアが声を掛けたことに、シゲルは驚いた。

 どう見ても30代半ばにしか見えなかったからだ。

 いや、そんなことは今はどうでもいい。

 シゲルはアンジェロの意識がカイン・エスクードに逸れたことで、急いで負傷したアーノンを結界の中に運び込んだ。

 治癒のスクロールに魔力を流す。損傷個所を修復するよう急いで魔力を通わせる。

 焦るな。落ち着け――

 震える手を必死で抑えながら、アーノンの顔色が少しだけ戻るのを確認すると、シルヴィアを仰ぎ見た。

「シルヴィア、交代して。僕がパージを治療する」

「わかったわ――」


 結界の外では、カインとアンジェロが睨み合っていた。

「それが、テオ・オヴィーか」

 カインがアンジェロの側に来たテオ・オヴィーを見ると、アンジェロは頷いた。

「ずいぶんと無粋な名前を付けてくれた」

 そう言うと、アンジェロは自分にすり寄るテオ・オヴィーの体に氷の槍を突き立てた。

「な――!」

 パージに魔力を流していたシゲルは言葉を失った。

 カインも驚いて動きを止めている。

「この子たちは私の魔力を食べさせて育てた特別な個体だ。他には存在しない。1人だけ残されたこの子は、群れを作る事も番うこともできず孤独に死ぬだけだ。それならば今、命を終わらせてやることが救いだろう」

 テオ・オヴィーは何が起きたのかわかっていないのか、アンジェロに体を摺りつけると、息絶えてその場に崩れ落ちた。

 アンジェロは表情を変えずに、その亡骸が力無く地面に横たわるのを見つめている。

「何が狙いだ」

 カインは声を荒げた。

「そうだね――狙いはあった。だけど、気が変わったんだ」

 アンジェロはそう言うと、紫色の瞳をシゲルに向けた。

 不気味なほどに感情がなく、ただ見ているだけの瞳に、シゲルは背中が冷たくなるのを感じた。

「何を言っている」

 カインは苛立ったように剣を構え直すと、シゲルを見るアンジェロに飛びかかった。

 その動きは素早く、アーノンやパージよりも洗練されたものだと、シゲルにもわかる。

 アンジェロは、それを身じろぎ一つせずに見つめ、カインの切っ先が自分に届こうとしたその時――

 とてつもない魔力の圧力が、その場の全員を襲った。

 アンジェロの魔力はカインごと結界すら吹き飛ばし、シゲルとシルヴィアもその圧力に巻き込まれた。

 一瞬途切れた意識が戻ると、体中の魔力が乱され、意識と体が切り離されたような感覚に陥っていた。混乱する頭を動かすと、身動きが取れないまま土の上に横たわっているのを自覚した。

 視界の端ではアンジェロはゆっくりと歩を進め、意識を失っているアーノンとパージの側に立つのが見えた。

「やめ……ろ」

 シゲルはかろうじて動く口で言ったが、アンジェロは二人の顔を覗き込むと、順番に傷口に触れた。

 何をした?

 霞む目で二人を見ると、さっきまで細かった息が落ち着いているように見える。

 どういうことだ……

 シゲルが困惑していると、アンジェロは起き上がろうとするカインをみて、彼の元に近寄った。

「さすがは王国随一の魔力量の持ち主だ。あれを食らってもまだ意識があるとは」

 アンジェロはカインを見降ろすと、その青白い顔を紅潮させて喜んだ。

「けれど、ほら――魔力が乱れている。苦しいだろう?」

 アンジェロの言う通り、シゲルだけでなくカインの魔力も乱されてるのが分かった。

 カインの体から黒い魔力が靄のように広がるのが見える。

 なんだ……あれは。あんな魔力、見たことがない。

 アンジェロは、片膝をつき立ち上がろうとするカインの顎に触れると、その魔力を吸収してみせた。

「なるほど、これは確かに面白い――だけど、やっぱりこれじゃあ足りないな」

 微笑んだまま、アンジェロはカインの胸元を掴むと、その顔をカインに近付けた。

「君はもういらない――もっと面白いものを見つけたからね。安心するといい」

 そう言うとカインの体から手を離した。カインの体は支えを失ったかのようにその場に崩れ落ちた。

 アンジェロはそのままゆっくりとシゲルに近寄ると、体を屈ませてシゲルの胸に手を当てた。

「はな……せ」

 抵抗できない。だが、少しずつ魔力の流れが整ってきているのがわかる。もう少しで体が動く。

「――君はおもしろい。だが、まだだね」

 アンジェロはそう言って立ち上がると、全員を振り返る事なく立ち去ろうとした。

「待て――」

 シゲルは、ようやく動くようになった体をぎこちなく起こすと、腰に掛けたナイフを握った。

「アーノンさん達に何をした――お前はなにが目的なんだ」

 シゲルの声に、アンジェロは振り返ると肩をすくめて見せた。

「私の目的なんぞはそのうちわかるさ――そうだね、また私の方から君に会いに来よう」

 アンジェロはそう言うと、手をかざした。

 たちまち、アンジェロとシゲルの間に氷の壁が立ちふさがる。

「待てって言ってるんだよ!」

 シゲルは全身に魔力を纏わせると、氷の壁に力一杯ナイフを突き立てた。

 魔力がナイフの先から溢れて火薬のように爆ぜると氷の壁は砕け散ったが、アンジェロの姿はもう、そこにはなかった。

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