27.
テオ・オヴィーは4人まで2メートルの位置まで距離を詰めていた。
奥にいる1体が指示を出しているのだろう、統率の取れた動きでパージやアーノンが剣を振っても、素早い動きで避けられてしまう。
だが、テオ・オヴィーの攻撃もアーノン達は跳ね返しているが、2人対4体では不利なことはシゲルにもわかっていた。
魔法――魔法でサポートをしないと――でも、どうやって?
シゲルが魔法陣を使わずに放てる魔法は、炎と雷撃だけだ。
だが、素早いテオ・オヴィーに確実に当てられる自信などない。
もっと足を止める魔法はないのか。
何か論理……論理を考え――無理だ。こんな状態で何かを考えるなんてできるはずがない。
どうしてこんな時に限って冷静なのかと、自分を呪ったその時だった。
「危ない――!」
シルヴィアが声を上げて結界から飛び出した。
1体の攻撃を凌ぐパージの後ろから、もう1体が襲い掛かったのを、シルヴィア防御の魔法陣を展開して食い止めた。
「すまない」
パージは短く言うと、剣に魔力を込めた。
弾き返したテオ・オヴィーの体に電撃が直撃し、ひっきりなしに動き回る足が止まった。
その隙をパージは的確に捉えていた。
一足で距離を詰めると、テオ・オヴィーの頭を斬り落とした。
やった――
シゲルが安心したその時だった。
シルヴィアが防御の魔法陣ごと、テオ・オヴィーに弾き飛ばされた。
小さく悲鳴を上げて倒れたシルヴィアに、2体のテオ・オヴィーが飛びかかった。
シゲルが飛び出すよりも早く、パージがシルヴィアを庇うように覆いかぶさり、その脇腹をテオ・オヴィーの鋭い爪が貫通した。
「パージ!」
結界から飛び出したシゲルは、腰に下げたナイフを手にテオ・オヴィーに斬りかかったが、当たり前のように避けられた。
「パージを結界に。早く」
アーノンが言うと、シルヴィアはパージの体を担ぎ上げて結界の中に連れて行った。
「ごめんなさい――ごめんなさい。私……」
「謝る必要――なんかない。あんたは……失敗しなかった」
シルヴィアが泣きながら言うのを、パージは息も絶え絶えに制して、意識を失った。
シルヴィアは治癒のスクロールを腰のポーチから取り出したが、うまく魔力が練れない。
早くしないと――
焦るが、こんな大怪我に使ったことなどなかった。
「シルヴィア、血を止めるだけでいい!あとは僕がやるから」
シゲルが結界の外から叫んだ。
止血なら何度かしたことがある。
シルヴィアはスクロールに魔力を流し込んだ。
「アーノンさん、一旦結界に」
「だめだ。獲物を逃がしたと分かればこいつらはすぐに逃げてしまう。ここで叩かないともう同じ罠には引っかからん」
くそっ――
シゲルは炎の魔法と雷撃の魔法を繰り出しながら、アーノンの動きをサポートするが、決定打にはならない。
「さっきパージが見せたので学習したんだ」
悠々と雷撃を避けるテオ・オヴィーに、シゲルは悔しさに歯噛みしたが、手を止めるわけにはいかなかった。
もっと別の――あの時のように土を操れたら。
この世界に来て一番最初に使った魔法。自分の周りに土の壁を作った魔法。あれは一体どうやったんだろう。
焦りで集中力が切れたのか、魔法を繰り出すタイミングが遅れた。
しまった――
一瞬の隙だったのに、テオ・オヴィーはそれを逃さず、アーノンの左肩に牙を立てた。
「アーノンさん!」
シゲルが叫ぶと同時に、地面が動いた。
土でできた槍がアーノンに噛みついた個体を貫いた。
できた――
「よくやった」
シゲルが自分の結果に唖然としていると、アーノンはそう言って、統率の乱れたテオ・オヴィー達を睨みつけた。
噛みつかれた左肩には血が滲んではいたが、深手ではなかったらしく、剣を持つ手も緩んでいない。
その気迫に圧されたのか、テオ・オヴィーの動きが止まった隙に、アーノンは剣に炎を纏わせて1体を斬りつけると、返す勢いでもう1体の体も斬りつけた。
残る1体は、アーノン達と距離を取っている。
「あれが頭か」
アーノンが呟くように言うと、剣を握りなおす。
あれで最後――
シゲルは横目でシルヴィアを見た。
治癒のスクロールでパージの出血は止まっている。浅いけど息がある。大丈夫。
シゲルも残る1体を睨む。
その時だった。
どこからか飛んできた氷の矢が、アーノンの左肩を貫いた。
「アーノンさん!」
シゲルは叫びながらアーノンに駆け寄った。
「私の可愛い魔獣たちの魔力がおかしいから来てみれば――ずいぶんと酷いことをする」
木の陰からローブを着た男が現れた。
青みがかった黒髪に、紫色の瞳をした男だ。
整った美しい顔は青白い程に色素がない。いや、それ以上に生気がない。
だが、その目は確実にシゲルを捉えていた。
「誰だ、お前は」
シゲルが問いかけたその時だった。
「シルヴィア、無事か」
反対側から、シルヴィアによく似た金髪に青い瞳の男が飛び出してきた。
「おや――これはエスクード元侯爵閣下」
黒髪の男が妖艶な笑みを浮かべた。
「その髪、その瞳――バロッティか」
金髪の男が憎しみを込めて、言い捨てた。




