表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強魔法使いは異世界から帰りたい(リライト版)  作者: やまだ ごんた


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/30

25.

「私はまだ騎士ではないわ。正直言うと、この剣はひいおじいさまのものなの――それがあなたに不快な思いをさせていたなんて知らなかった。ごめんなさい」

 シルヴィアは腰に下げた剣を触りながら、申し訳なさそうに頭を下げた。

 悪い子じゃないのかもしれない。

 シゲルはすぐに絆されたが、パージは困惑しているようだった。

「いや――不快って言うほどでも……」

 言い辛そうにもごもごと言っているが、シルヴィアは聞いていない。

「私の話も聞いて欲しいの。私は、遊びでこれを下げているわけではないし、ここに来たのも物見遊山なんかじゃない。私は――ひいおじいさまのように立派な騎士になりたいのよ」

 シルヴィアはそう言って正面からパージを見つめた。

「女が――」

「女が騎士を目指して何が悪いのよ」

 パージの言葉を遮ってシルヴィアははっきりと言った。

「私はエスクードの直系よ。その中でもひいおじいさまに似て、一族で一番魔力が多いの。――あなた達、貴族の女の一番の役割がなんだかわかる?」

「――結婚だろ」

 パージが顔をしかめて答えると、シルヴィアはうなずいた。

「そう。貴族の女なんて結婚して子供を産むことが一番の役割なの。このままだと、来年成人したら私は結婚させられるわ。でも、私はただ子供を産むためにこの魔力を使うなんていや。この魔力をもっと人の為に、世のために使いたい。だから騎士になりたいの」

 シルヴィアの言葉に、シゲルはそっとシルヴィアの魔力を見たが、パージやアーノンと同じか、それよりも多い程度の魔力量に見える。 

 いや、それだけアーノンさんたちの魔力量が多いってことなのか。

 シゲルが考えていると、パージは少し考えて「わかった」とだけ言った。

「ひいおじいさまが約束してくださったの。この件を解決したら騎士になることを許すって。だから――お願い。力を貸して欲しいの」

 シルヴィアはそう言って頭を下げた。

 

 シニストロの樹海は大森林ほどではないが、奥に行けば行くほど魔力の圧力を感じるようになる。

 そのせいか、2日目にしてシルヴィアは目に見えて疲れているように見えた。

「おいおい。大丈夫か?小屋で休んでていいんだぞ」

「大丈夫よ――あなた達、よく平気ね」

 パージの煽りにも言い返す元気がないらしく、シルヴィアはアーノン達を恨めしそうに睨んだ。

「シルヴィアはこういう場所が初めてで、体が慣れてないだけだ。何度か経験するうちに慣れると思うが」

 アーノンが言うと、シルヴィアは歯を食いしばって背中を伸ばした。

「なら、慣れるためにも休んでいられないわよ。時間は限られてるんだから、行くわよ」

 負けず嫌いなんだなと、シゲルは微笑ましくシルヴィアを見つめていた。

「それなら気を張れ。この辺りはウルスの縄張りでもある」

 アーノンの言葉に、シルヴィアは表情を引き締めた。

 テオ・オヴィーの痕跡を追って樹海を探索しているが、まだ縄張りの範囲を絞り切れない。

 依頼は7日間の期限だ。シルヴィアが焦るのも無理はない。

 先頭をアーノン、シルヴィア、シゲルと続き、しんがりをパージが務める。

 時折木の根などに躓くシゲルを支えるパージを、シルヴィアは見逃していなかったことも、シゲルは知っていた。

 だが、平和なのはそこまでだった。

 茂みが揺れたと思った瞬間、熊のような大きさの魔獣が飛び出してきた。

「ウルスだ!」

 パージが声を上げたが、ウルスは目当てを付けていたのか、わき目も振らずにシルヴィアに襲い掛かった。

「防御を――くそっ」

 シルヴィアが剣を抜けずに驚いている間に、パージとアーノンは素早く剣を抜いた。

 アーノンが炎を真っ直ぐにウルスの前に飛ばすと、ウルスは怯んで足を止めた。

 その隙をついて、パージが雷撃を纏った剣で背中を斬りつける。

 ウルスが痛みで鳴き声をあげる間もなく、アーノンの大剣がウルスの首を斬り落とした。

 時間にしてほんの数十秒ほどの出来事だった。

 シルヴィアは声も上げられずにその場に座り込んだ。

「一旦こいつを小屋に運ぼう」

 アーノンが言うと、パージはちらりとシルヴィアを見て頷いた。

 

 アーノンとシゲルが小屋の外でウルスの血抜きをするめに、ウルスを吊るしている間、パージは昼食の仕度を始めていた。

 元々、小屋で食べるつもりはなかったのだが、せっかく小屋に戻ったのだからと、昨日のスープを温めるために竈に火を入れた。

「手慣れてるのね」

 その様子を眺めながらシルヴィアが言ったが、パージは振り向かなかった。

「うちは母さんが死んだからな」

 思わぬ返事に、シルヴィアは口をつぐんだ。

「7年も前のことだ。気にすんな」

「――ごめんなさい」

「気にすんなって言っただろ。そんなことよりなんであの時防御の魔法陣を展開しなかった」

 パージは苛立ったように言うと振り向いた。

 グレーの瞳がシルヴィアを見据えている。

「咄嗟のことで――」

「騎士は」

 シルヴィアの言葉を遮ってパージは言った。

「剣技よりも礼節よりも、まずはじめに防御の魔法陣を完璧に覚えさせられる。なんでだかわかるか?」

「死なない――ために」

 パージの目から逃げるように、目を逸らしながらシルヴィアは答えた。

「まさか防御の魔法陣を使えないのに来たのか?」

「そんなはずないじゃない」

 シルヴィアは立ち上がって声を上げた。

「独学だけどずっと勉強していたわ。ほら――」

 言いながら手を差し出して防御の魔法陣を展開してみせた。

「さっきは、魔力で圧されて少し――焦ったの。でも、次は失敗しない」

「一度の失敗で命を落とすってのに、随分余裕なんだな」

 パージの言葉に、シルヴィアは何も言い返せなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ