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最強魔法使いは異世界から帰りたい(リライト版)  作者: やまだ ごんた


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24.

「今回の依頼は、このシルヴィア嬢と組んで行う」

「は――?」

 アーノンの言葉にパージは、あからさまな嫌悪感を隠そうともしなかった。

 なんでパージはこんなに嫌そうなんだろう……

 シゲルは今は聞く空気ではないことを理解していた。

 アーノンに促されてシルヴィアが席に着いた時から、多分そうだろうと予想はしていたが、パージは納得がいきかねる様子だった。

「依頼は新種の魔獣の調査と、捕獲だ」

 パージの不機嫌など意にも留めぬと言わんばかりに、アーノンは続けた。

「この数か月、城壁の外の農場で農作物や家畜の被害が多発しているらしい。その場所に残っていた足跡はオヴィーのものだったが、大きさが全く違っていたそうだ」

 通常のオヴィーは体長が50cmほどで足跡も子供の手のひら程度の大きさだが、その足跡は大人の男の足ほども大きかったのだと聞いて、パージはそれまでの不機嫌そうな表情をひっこめた。

「姿は確認できていないが、足跡や残置物から、おそらくオヴィーの新種とみて間違いないだろうとのことで、仮にテオ・オヴィーと名付けられている」

「それで――そこのお嬢さんが何だっていうんです?」

 なるべく感情を平坦にしようと努力しているのはわかるが、不快感を隠しきれていない。

「名乗るのが遅れたことを謝罪するわ。私はシルヴィア。シルヴィア・エスクードです」

 アーノンがいるからなのか、シルヴィアは上品な笑顔で挨拶をしたが、パージは眉間に刻んだ皺をただ濃くするだけだった。

「俺の息子のパージと、こっちは弟子のシゲルです」

「敬語は必要ないわ。私も今回はあなたに師事する身ですもの。私の事もシルヴィアと呼んでいただけたら」

「承知した」

「なら、もう話は終わりですね?俺は父さんの決定に従います――シゲル、行くぞ」

 そう言うと、パージはシゲルの腕を掴んで立ち上がった。

「え――ちょっと、どこ行くの?パージ?」

 シゲルは引きずられるがままに酒場を後にしたが、席を立つときに見てしまった。

 シルヴィアが嬉しそうに口元を覆って、両目をカッと見開いて自分達を見ていたことを。

 間違いない。

 シゲルは確信した。

 あの子――お腐れ様だ。


「ねえ、パージってば。どこまで行くんだよ」

 店を出てしばらく引きずられるように歩いていたが、いい加減腕も痛くなったので声を掛けると、パージは立ち止まって「悪い」と小さく呟いた。

「飯、食い損ねたな」

 言われてみれば、今日は昼に干し肉を少し食べただけで、何も食べていなかった。

「こっちに屋台が出てるんだ。うまい煮込みがある」

 今度は優しく腕を引くと、大通りから広場に出た。

 そこでは所狭しといい匂いのする屋台がひしめいていた。

「煮込みは――熱いな。そこの串を買ってくるから待ってろ」

 こんな時にまでパージは面倒を見るのをやめないのかと思ったが、むしろそうすることで自分を保っているのかも知れないと、シゲルは考えた。

 甘えておこう。どうせこの世界の屋台なんて何もわからないんだし。

 シゲルが言われた場所で待っていると、パージは両手に串とコップを持って戻ってきた。

「さっきのとは違って苦いけど、飲めるか?」

 コップの中はエールだった。

 この世界でビール的なものが飲めるなんて――

 口を付けるとぬるいが、独特の麦の香りが鼻から抜ける。

「お――おい、どうしたんだよ」

 パージが戸惑うのも無理はなかった。

 シゲルは両方の目からぽろぽろと涙を流していたからだ。


 みちると初めて会ったのは総務部と社内システム部の交流会だった。

 ビールをこぼしたシゲルに、みちるはおしぼりでシャツを拭いてくれた。

 ひと月頑張って口説き落とした時は、天にも昇る気持ちだった。

 初めてキスをしたのはバレンタインデーだった。

 みちるがチョコをくれて、ありがとうと目を見て言ったら、そのまま引き合うように唇が重ね合った。

 そういった思い出が懐かしい味とともに一気に湧き出てきたのだ。

「ごめ――ごめん。僕泣いてばっかで……思い出さないようにって……考えないようにって……」

「……いいよ」

 そう言うと、パージはシゲルの肩を抱くように腕を回した。

 肩越しにパージの体温が伝わる。不思議と、自分が今ここに存在していることを許されているという気がして、安心することができた。

「俺も、悪かった」

 すぐ近くでパージの声が聞こえる。

「俺さ、騎士になりたかったって言ったろ?」

「うん」

「子供の頃、父さんの依頼について行った先で、王国の討伐隊に会ったことがあったんだ。その時の隊長に憧れて、俺は騎士を目指したんだ」

 シゲルは、黙ってうなずいた。パージは話したいんだと分かっていた。

 話して、吐き出したいのなら、シゲルの相槌すら邪魔なのだ。

「あのシルヴィアって嬢ちゃんが持ってた剣――騎士隊の紋章が入ってたんだ」

 シゲルはなんとなくパージが不機嫌になっていた理由が分かった気がした。

「俺が諦めた夢を、貴族の嬢ちゃんが雑に扱ってる――なんて、子供じみた妬みだ」

 シゲルは黙ってパージの言葉を聞いていた。

 思った通りだった。だから、あの件を拾いあげてからパージの態度がおかしかったのだ。

「俺が騎士を諦めたのは俺の意志だ。これ以上大事な人たちを無くさないために、守る為に騎士じゃなくハンターを選んだ――つもりだったんだがなぁ」

 パージはシゲルの肩に頭をもたげて溜息をついた。

 精一杯何でもないように話しているが、それは強がりで、こうやっているのはパージなりの甘え方なのだと、シゲルは理解した。

「戻ったら父さんと――あのお嬢ちゃんにも謝らないとだな」

 パージの言葉に、「そうだね」と言って、シゲルは肩に置かれたパージの頭を軽くポンポンと叩いた。

「謝るのは私の方だわ」

 不意に、後ろからシルヴィアの声が響いた。

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