21.
回路はとても簡単だった。
グリップの魔法陣から魔石を通して増幅し、ブレードに魔力を流す。
ただ、その魔石の回路がブレードではなくグリップへ逆流するようになっていたのだ。
とても簡単なブリッジ回路だが、その知識がなければこうなるというお手本だ。
シゲルは『金属の加工と錬成』に書かれていた通りに、魔力を集中させた。
表面の回路を削り落とし、新たな回路を書き込む。
魔力を使って作業をするのは2回目だった。
パージのくれた――リディの――錬金術の本には、魔力を使った加工技術の事がとても丁寧に書かれていた。
エネルギーであるはずの魔力が、物理にも影響できると知ったのは本のおかげだった。
まるで魔法だ――いや、魔法か。これは。
シゲルは唇を緩めながら、魔力の操作に集中する。
回路なんて大学で勉強した以来だが、意外と覚えているものだと自分でも感心する。
ゆっくりと魔力を使って回路を刻みつけていく。前に作ったスクロールも、魔力を使って簡単にできた。
この回路の修正も同じで、魔力はイメージした通りの形に姿を変えて魔石の周りに正しい回路を描く。
作業は1時間ほどで完了した。
試しに魔力を少しだけ流してみると、ブレード部分に魔力が抵抗なく流れるのが分かる。
「できたのか?」
そわそわとアーノンが覗きにきたので、シゲルは頷いて剣をアーノンに返した。
アーノンが嬉しそうに受け取ると、パージも剣を持ってもじもじとしている。
「パージのもきっと同じだよ。貸して」
シゲルの言葉に、パージの顔はわかりやすく輝いた。
結論から言うと、剣の威力はとても素晴らしいものだった。
魔法陣は炎や雷撃を、使用者の魔力の流し方で数パターンの形状で発揮するよう設計されていた。
誰が作ったものなのかは分からないが、これを作った人はきっと天才だったんだろうと、シゲルはアーノンとパージが嬉しそうに魔法を発しながら狩りをする姿を白々しく見て思った。
――僕、いらないじゃん。
大森林には毎日連れて来られるが、アーノンが言ったように後方から魔法で支援なんてしなくても、全く問題がない。
アーノン達は数振りですっかり魔法剣の扱い方を把握し、炎を、雷撃を自由自在にはなっている。
むしろシゲルが魔法を放つ方が邪魔になるくらいだ。
「次は俺が行きます」
水辺にいるサイノスを見つけると、パージは小声でアーノンに言った。
アーノンは少しだけがっかりしたような顔をしたが、黙って頷いた。
一呼吸置いて、パージは剣に魔力を流し込み、茂みからサイノスに向けて剣を振ると、雷撃が一直線にサイノスの後足の厚い皮膚を貫いた。
不意に撃たれてバランスを崩したサイノスに向かって飛び出すと、パージは剣を構えてもう一度魔力を流し込む。
剣は雷撃を纏うと、サイノスの首目掛けて振り下ろしたと同時に、雷撃が爆ぜた。
身体強化に加えて、雷撃が爆ぜた勢いが乗った剣は、小さな像ほどもあるサイノスの首を斬りつけて、サイノスは絶命した。
シゲルは、パージの素晴らしい剣裁きに感心しつつ、この親子がすっかりシゲルの修行という名目を忘れていることを悟っていた。
「しかし、なんでこんなすごい剣がアーノンさんの家にあったんでしょうね」
狩りから戻っていつものテルマエで湯に溶けながら、シゲルは独り言のように呟いた。
「俺達でさえ疲れるくらい魔力がいる剣だぞ?大方先祖の誰かが騙されて買っちまったんだろ」
パージが答えると、アーノンも頷いている。
「だが、シゲルがアレを使えるようにしたことは黙ってた方がいいな。他の奴らの前では使わないように気を付けろよ」
言われてみればそうだと、シゲルは納得した。
スクロールを使った剣も、似たような事ができるらしいが、いかんせん何度か使えるとはいってもスクロールは使い捨てだ。
攻撃用ともなるとそこそこの金額だから、ここぞという時にしか使えない。
スクロールなしであの威力の魔法が出せるとなれば、こぞって欲しがるか、シゲルに作らせようとするだろう。
いや、あの威力もこの二人の魔力量があればこそなのだが、それでも欲しがる人間は多いだろう。
シゲルがぼんやりと考えていると、いつもは長湯を好むアーノンは立ち上がって湯舟から出た。
「俺は村長に呼ばれてるから先に出るが、お前らはゆっくりしていけ」
アーノンはそう言うと、さっさと浴室から出て行った。
その後ろ姿を見送りながら、パージは少しだけ眉を顰めた。
「どうしたの?パージ」
シゲルが尋ねると、パージはシゲルの濡れた頭をポンポンと叩いた。
「なんでもない」
そうは言っても、パージの顔には緊張が見える。
「本当に?そうは見えないんだけど」
「いや――うん。なんでもなくないな」
首をかしげるシゲルに、パージは言った。
「多分遠征の依頼だ。村長に呼ばれる時は大体そうなんだ」




