17.
一度うまくいくと次もうまくいくというのはよく聞くが、そうも行かないことも多い。
身体強化もそうだった。
「むしろあの時なんでできたのか聞きたいぜ」
エイクの容赦のない言葉がシゲルに刺さる。
「そんなこと言ったって……あの時のことはあんまりよく覚えてないし」
ぜえぜえと息を切らせてシゲルが言うのを、パージが笑って見ている。
あの日から3日が経過していたが、身体強化はうまく使えない。
意識すればするほど、感覚が遠のいてしまい、できなくなる気がする。
「シェリルを助けた時はできたんだろ?」
パージが言った。
今日はパージが特訓に付き合ってくれている。
「あの時は必死で……」
「だったらまた必死になればいいんじゃね?」
脳筋のエイクがあっさりと言ってのけた。
「無理だよ!無理だって!」
翌朝、まだ空が白み始めた早朝に、シゲルの泣き言が裏庭に響き渡る。
「エイクだって言ってただろ?実践あるのみって」
呆れたようにパージが言うと、シゲルは顔色を青くして首を横に振った。
「実践もクソも、僕はまだ1回しか身体強化を成功させてないんだぞ!死ぬわ!」
「必死になったらできたなら、また必死になればできるんじゃないのか?」
アーノンも脳筋なのか、腕を組みながら首を傾げる。
この場所に僕の味方は一人もいないのか。
エイクの提案は簡単だった。
大森林で狩りをする。
もちろんシゲルは反対したが、パージはすぐに賛成したし、帰宅後にアーノンに伝えるとすぐにシゲルに小さな――と言っても刃渡りが40センチはありそうな――刀身の曲がったククリナイフのような剣を与えてくれた。
そして今に至る。
絶望的な気分でシゲルはどうにか行かなくていい方法を考えていた。
シゲルとて、いつかは大森林に行かなければならないことは十分理解している。
だが、今じゃない。絶対に今じゃない。
そう思っていたのだが、結局のところパージに無理矢理草竜に積み込まれてしまった。
大森林に近付くほど空気は重い。いや、魔力の圧力なのだろう。
息苦しさを感じるほどだ。
草竜が駆け足で進むほどに木々が増え、10分も進むと鬱蒼とした森に入っていった。
これが大森林――
しかし、この程度はまだ序の口である事は、なぜか理解できた。
この奥にアベル王子がいる。そして、僕が帰る手段が。
シゲルはパージの体温を背中に感じながら、鞍をぎゅっと握りしめた。
30分ほどさらに進むと、草竜は小さな小屋の前で止まった。
「一の小屋だ。狩猟の拠点になる。この先に二の小屋、三の小屋があって、それぞれ許可されたハンターしか行く事はできない――三の小屋は俺と父さんしか使えないんだぜ」
シゲルが降りるのを手伝いながら、パージが自慢げに説明をしてくれた。
「許可って、村長の?」
「ハンターの組合があるんだ」
アーノンが後ろから追加した。
「組合って――所謂ギルドってやつ?」
突然のファンタジー用語に、シゲルの胸はときめいたがパージもアーノンも「ギルド?」と首を傾げている。
「あ……うん。僕らの世界で組合をギルドって呼ぶこともあるんだよ」
外来語は通用しないのかと、シゲルはしゅんとなったがパージ達は気にしていないようだ。
「シゲル、これに魔力を入れてくれ」
先に小屋に進んでいたアーノンが、壁を指差して言ったので、シゲルはすぐにアーノンのところに行こうとしたが、足に力が入らない。
その場にへたへたと座り込むと、パージが大笑いした。
「そっか、身体強化できないんだったよな」
村の中を歩く時と違い、駆け足で走る草竜に振り落とされまいと力いっぱいしがみついていたせいで、足に力が入らないのだ。
「身体強化は大事だなぁ」
アーノンが呑気に言った。
少し休むと回復したが、その間にパージ達は草竜を繋ぎ、装備を点検して狩りの準備を整えていた。
「この魔法陣ですか?」
シゲルは、先ほどアーノンが指差した場所を見た。
結界の魔法陣が壁に刻まれている。その下には大きな魔石が嵌め込まれている。
なるほど、この小屋が魔獣に襲われずに建っていられるのは、結界のおかげなのかとシゲルは納得した。
「よし。行くか」
アーノンが立ち上がると、パージも頷いた。シゲルは首を振っている。
「俺は奥で山狼の罠を調べてくる。シゲルはパージと浅部でガーグでも狩ってみたらいい」
そう言うと、アーノンは大剣を背に担いで颯爽と森の奥へと消えていった。
その姿を見送ると、パージはシゲルの肩を抱いて「行くか」とにっこりと笑った。
拒否権などないことはわかっている。だが、頷けない。
「無理だってば……せめて身体強化ができるようになるまで待ってよ」
「いつできるようになるんだ?」
パージの鋭い言葉がシゲルの胸を刺した。
「俺だって無理強いをする気はない。だが、エイクだって回復した今、いつまでもお前に付き合わせてもいられないだろ。あいつらにだって生活はあるんだし」
至極正論で、シゲルは言葉を詰まらせた。
甘えているつもりはなかったが、シゲルができないままだとエイクだけではなくパージやアーノンも生活を削ってシゲルの面倒を見なければならないのだ。
それは嫌だった。
「それに、準備はちゃんとしたじゃないか。結界に治癒のスクロール。なんかあったらそれでなんとかしろ」
パージの言葉に、今度はちゃんと頷いた。




