15.
「パージ、これ使ってみて」
夕方になってやっと部屋から出てきたシゲルが、大きさがバラバラないくつかのスクロールをパージに手渡した。
「着火、灯り……結界まで作ったのか?」
マッチ箱程度の大きさのスクロールには着火と灯りの魔法陣が描かれている。手のひらより少し大きいものには結界のスクロールが描かれていた。
「アーノンさんから、結界とか治癒のスクロールはすごく高いって聞いたからさ」
照れ臭そうなシゲルに、パージは口元を緩めた。
シゲルの頭を軽く叩くと「明日使ってみる」と言って、結界のスクロールをズボンのポケットに大事そうに仕舞った。
翌日、ジェインとエイクが村に付き添ってくれた。
スクロールの納品だ。
パージとアーノンは狩りに出てしまったので、エイクが草竜で送ってくれている。
「帰ったら身体強化の訓練な」
エイクの一言に、シゲルは逃げたくなった。
「魔力操作もコツを掴んだらすぐ覚えたんだし、大丈夫だよ」
草竜を並ばせたジェインの言葉で心が軽くなった気がしたが、エイクの「そうだ。俺が教えてるんだしな」の一言でまた重くなった。
「そうあからさまに嫌がるな。あれこれ考えるより実践が一番なんだって」
エイクはそう言うと、後ろからシゲルの体を抱き寄せるようにして、顔を覗き込んだ。
エイクの金色に近いアンバーの瞳がシゲルを見つめると、なぜか落ち着かない気分になる。
「着いたよ」
ジェインの言葉で我に返ると、小さな店の前にいた。
草竜を降りて中に入ると、そこにはキールが店番をしていた。
「よお。久しぶり――ってほどでもないか?」
シゲルの顔を見てキールが笑顔を見せる。
「あれ?なんで君がここにいるの?」
「ここはキールの実家なんだわ」
エイクが先に答えた。
「俺はハンターの家系じゃないからな。エイクが回復するまではただの村人でこの店の店番小僧だ」
肩をすくめて笑うキールの肩を、エイクが抱いて笑う。
「ハンターってのは、基本的に世襲制だからな。たまにお前みたいに外から来て修行させてくれって奴もいるけど」
「キールは子供の頃からハンターになりたくて頑張ったんだよね」
ジェインが言うと、キールは少しだけ照れ臭そうに俯いた。その口元はどこか嬉しそうだ。
「こいつらがいたからな。置いていかれたくなかっただけだ――昔話はまた今度してやるから、納品を。スクロールだろ?」
エイクを振り払うようにキールが言うと、シゲルは思い出したように腰に下げたポーチから紙の束を出した。
「うまくできたかわからないけど――」
キールは受け取ると、丁寧にスクロールを確認した。
「着火が40枚、灯りが20枚、攻撃用の炎が10枚――一日でこれだけ作ったのか?」
キールが何故驚いているのかは分からなかったが、シゲルは遠慮がちに頷いた。
エイクが「すげえな」と驚いている。
「トロニーの橋がおちたせいで、商団が来るのが遅れていて、スクロールの在庫が危なかったんだ。助かるよ」
キールはそう言ってスクロールの代金をシゲルに渡した。
銀貨11枚、銅貨25枚――シゲルが初めてこの世界で稼いだ金額だ。
「あ!エイクだ」
通りかかった広場で、遊んでいた子供達の1人がエイクの名を呼ぶと、周りにいた10人ほどの子供達が一斉に草竜を取り囲んだ。
「どこ行くの?」
「あそぼ!」
「その人だれ?」
次々に話しかける子供達にシゲルは圧倒されたが、エイクは慣れたものだった。
「キールのところに行ってたんだ。こいつはシゲル。アーノンさんとこにいる見習いだ」
そう言うとエイクは草竜から降りて、子供達の頭を撫でるように軽く叩いた。
アーノンやパージがよくシゲルにする仕草だ――この世界での子供達への愛情表現らしい。
……知ってましたけどね。
つまりはシゲルも子供扱いされていたということだ。
「ちょっと遊ぼうぜ、シゲル」
エイクが言うと、シゲルもおずおずと草竜から降りた。
「シゲル!遊ぼう」
子供達が口々に言うのが、どこかむず痒い。
「かけ鬼だ!シゲルが鬼な!」
エイクの号令で子供達が一斉に逃げ出す。
「え――ちょっ」
ルールも知らないのに鬼って――いや、それよりも子供達の動きが速すぎる。目で追うのがやっとだ。
シゲルがおろおろと立ち尽くしていると、1人の子供がシゲルの背中を叩いた。
「痛っ」
びっくりしてキョロキョロするが、その反応が面白かったらしく他の子供達も次々に真似をする。
「ちょ――痛いから!やめなさい――力つよっ!」
加減してるのだろうが、子供と思えない力だ。
「なんだよ、お前身体強化できないの?」
「よっわ」
子供達の無邪気なディスりがシゲルの心を抉る。
「シゲルはまだ練習中なんだよ」
ジェインがフォローするが、子供達は「練習中だって」と笑っている。子供は残酷だ。
「身体強化、大事だろ?」
「――はい」
エイクの勝利だった。




