12.
「俺はエイク。こっちの髪の長いのがキールで、短いのがジェイン。俺らは基本は3人で組んでるけど、パージと同じ年で幼馴染だ」
エイクはそう言って一緒に来た2人を紹介した。
「あんたがいなかったら、エイクが助かってたかどうか――本当に感謝する」
「感謝するのは俺だ。あんたは命懸けで俺らを助けてくれたんだ」
キールとエイクが言うと、ずっと黙っていたジェインがたまらず口を開いた。
「俺のせいだ。俺がちゃんと仕留められなかったから」
シゲルは、ハンターは大体2人から4人でパーティを組んで狩りをするのだと、パージから教えてもらったことを思い出した。
エイクたちのパーティは、エイクとキールが剣、ジェインが弓らしい。
「お前のせいじゃないって言ってるだろうが」
恐らく何度も言ってるのだろう。エイクは呆れ気味に言った。
「あの日、俺達はサイノスを狩ってたんだ」
話が読めずに困惑しているのを察したのか、キールが話し始めた。
「サイノスは普段は大人しいんだ。でも、あの日はなぜか気が立ってたのか、俺達が仕掛ける前に俺達に気付いて攻撃してきた――あんなのは初めてだった」
整った顔から発せられる低い声は、とても聴き心地のいいものだったが、シゲルはつい自分の手を見た。
「それでも俺が外さなかったら――あんたのおかげだ。本当にありがとう」
ジェインは目に涙をためてシゲルを見つめた。
目の周りがくすんでいる。
「僕は――ただ、咄嗟にやっただけで、自分でも何をしたのかわかってないんですよ」
「それでも」
エイクは真っ直ぐにシゲルを見つめた。
「魔力が無くなる寸前まで俺達を守ってくれたんだ。約束する。あんたが俺達を必要とした時、俺達は必ず命を懸けてあんたを助ける」
エイクの力強い言葉に、シゲルは言えなかった。
サイノスが狂暴化したのは、自分のせいかもしれない――と。
「どうした。考え込んで」
エイク達が帰って少し経った頃、パージが尋ねた。
シゲルはずっと自分の手を見つめている。
「別に――いや、なんでもないんだ」
シゲルは、そう言ってパージを見た。
その目は、パージを見ているようで見ていない、そんな感じに見えた。
「そうか。俺はパンを取りに行って父さんを手伝ってくる。一人で大丈夫か?」
「君は僕をなんだと思ってるんだ?」
シゲルが恨めしそうに睨むと、パージは軽快に笑って家を出て行った。
はあ――やっぱり、これが原因だよな……
シゲルは、自分の手をもう一度見た。
体から靄のようなものがでて、揺らいでいる。
パージとアーノンはそうじゃなかった。
だが、この世界に来てまともに見た人間はオスカー以外ではパージとアーノンだけだ。
確証はなかったが、エイク達が来てそれは確証に変わった。
魔力が漏れている。
アーノンやエイク達も体から靄のようなものが出ているが、それらはぴったりと体に張り付くように見える。
だが、シゲルの魔力――と思われるものは、体から出ていつの間にか空気中の魔力に同化しているようだ。
魔獣は魔力を好む。
恐らく、きっかけはあの魔力暴走だったのだろう。
そして垂れ流されるシゲルの魔力が大森林まで届いてしまったのかもしれない。
シゲルは、ぼんやりとだが確信していた。
「魔力制御?」
昼過ぎに戻ってきたアーノンを捕まえるなり、早速尋ねると、アーノンは驚いてシゲルを見下ろした。
シゲルよりも頭一つ以上背の高いアーノンと近距離で話すのは首が疲れる。だが、そんな事を言っている余裕はない。
「意識して制御したことが無いからなぁ……この世界の人間なら生まれてまず最初に覚えるのが魔力制御と身体強化だ。理屈で教えられるようなもんじゃないんだ」
すまなそうに言うと、アーノンはシゲルの頭を大きな手でポンポンと叩いた。
どうもアーノンまでシゲルを子供扱いしているようだが、不思議と嫌な気はしない。
「ジェインに教えてもらえばいいんじゃないですか?」
草竜から荷物を下ろしながらパージが言うと、アーノンは「そうだな」と顔を明るくした。
「ジェインは弓使いだろ?魔力制御が得意なんだ」
何故、弓使いなら魔力制御が得意なのかなど、この世界に来て実質3日目のシゲルにはわかるはずもなかったが、翌日にジェインと再会してその理由が分かった。
ジェインの持つ弓は、魔法で制御するものだったからだ。
「これが弓――」
まるでコンバットボウだと思ったが、言っても伝わらないことは説明が面倒なので言わない方が賢明だと、シゲルは知っていた。
ジェインの弓は両端に魔法陣が描かれており、フルドロー時の負担を軽減するものだ。
弦も魔力を通して強化して使う。
「弓はさ、身体強化より魔力制御が重要なんだ。力業で引いても折れるだけだからな」
ジェインはそう言うと、弓を構えて矢を射て見せてくれた。
ジェインの指先から魔力が弦を通って伝わり、魔法陣がテンションを調整する。
指を離すと、シゲルが知っている矢の速さの数倍は速く射出された気がした。
ジェインはとても優秀な先生だった。
エイクとは違って。




