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最強魔法使いは異世界から帰りたい(リライト版)  作者: やまだ ごんた


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11.

お読みいただきありがとうございます

 再び草竜の背に揺られて、シゲルとパージは粉挽小屋に到着した。

 粉挽小屋というから水車や風車があると思ったが、そんなものはなくて、シゲルはなぜか拍子抜けしてしまった。

「パージじゃないか。今日はアーノンさんは?」

 気のよさそうな中年の男がパージを見つけて寄ってきた。

「風呂ですよ。今日は夜明け前から行ってたんで」

「そうなのか。悪いけど、ちょっと頼めるか?」

 男が言うと、パージは頷いて草竜から飛び降りた。

 シゲルが草竜の上から眺めていると、パージが粉挽小屋の壁に手を当てている。

 目を凝らしてよく見ると、パージの体から魔力が流れ込んでいる。あそこに魔法陣があるらしい。

 シゲルは慎重に草竜の上から降りると、「待っててね」と草竜に声を掛けたが、当然無反応だった。

 パージの側にそっと近寄ると、思った通り魔法陣が描かれている――が。

「これ、壊れてるよ?」

 シゲルが言うと、パージだけでなく男も驚いてシゲルを見た。

「粉碾臼が動かないんじゃないんですか?」

「なんでわかるんですか」

 男の返事でシゲルは理解した。

 インクではなく、壁に刻まれた魔法陣は、風化しているのか何か所か読めないところがあった。

 魔力を動力にして、一つ目の歯車を回す。そういう記述がある。

 治癒の魔法陣に触れた時のように、なぜか全てが読める。

「これ、プログラムだ――」

 シゲルは小さく呟いた。


「錬金術師さんでしたか」

 シゲルが魔法陣を修復している間に、パージがうまく誤魔化してくれてたのか、シゲルは錬金術師になっていた。

「海の向こうのイーズテールから来た錬金術師で、大森林の生態調査のためにアーノンの家に世話になっている」と、いう設定らしい。

 もちろん、イーズテールがどこにあるか、どんな国なのかは知らないが、その話に納得しているということは、どうも黒い髪の民族が住んでいるようだ。

「この村には錬金術師がいなくて困ってたんですよ。またスクロールなんか作ったら売って下さい」

 男はそう言うと、颯爽と去っていった。

「お前が寝てる間にそうしようって村長と決めたんだよ」

 パージはそう言うといたずらっぽく笑ってみせた。


 無事に粉を挽くと、村のパン屋を尋ねた。

 粉と金を渡して焼いてもらうシステムらしい。

 突然やってきた時はわからなかったが、村はとても活気があり、あちこちに店や工房のようなものがあった。

「魔獣の素材を加工して売ったりしてんだよ。定期的に商団が来て高く買ってくれるからな」

 魔獣は捨てるところがない。小さな魔獣ですら、大森林の魔獣というだけで、段違いに価格が跳ね上がるのだと、パージは教えてくれた。

 決して多くない人口だろうが、子供から大人の姿を見ることができた。

 みんなここで生きてるんだ。

 現実感が押し寄せてきたが、昨日までの不安な感覚ではなかった。

「パンは明日焼き上がるから、一旦帰ろう」

 パージの言葉に、シゲルは黙って頷いた。


 家に戻るとアーノンも帰ってきていた。

 長い髪を一つにまとめて、土間に置かれた食卓に座って大剣の手入れをしていた。

「遅かったな」

 シゲルたちに気が付くと、手を止めて顔を上げた。

 その顔を見て、シゲルはなぜか思わず「ただいま」と言いたくなるような、不思議な安心感を覚えた。

「飯にしましょうか」

 パージの言葉で、シゲルはやっと自分が空腹であることに気がついた。

 土間の端にある竈にスクロールを落とし入れると魔力を流す。薪に火がつくのを、シゲルはぼんやり眺めていた。

 手慣れた手つきでスープを温めると、硬いパンと一緒に食卓に並べた。

 オスカーの家の食事とはかなり違うが、スープからはいい匂いが漂ってくる。

「あの……食事をしながら言う話じゃないと思うんですが」

 手をつける前にシゲルは、思い切って口を開いた。

「僕に――戦い方を教えて欲しいんです」


「なんだ――改まって言うから何かと思えば」

 拍子抜けするほど、アーノンはあっけらかんと言った。

「気負わなくてもいいと言っただろ」

「冷めるから早く食えよ。まずは食って回復しろ――それからだ」

 アーノンとパージの言葉は、とても優しかった。

 その日の食事は、質素だが人生で一番美味しかった。


 翌朝、パージが様子を見に来る前にシゲルは起きていた。

 シスルの花茶を断る気満々だったが、パージに押し切られてまた飲まされた。

「念のためだ。大丈夫と思っても魔力が安定しないと魔力漏れから魔力暴走を引き起こすこともあるんだ」

 昨日は、寝起きに優しいからとパン粥やスープをつくってくれたし、今日は口うるさいし、まるでお母さんだなとシゲルは内心で笑った。

 何度飲んでも慣れないが、飲み切るとご褒美に蜂蜜水を差し出してくれるのが、またお母さんらしい。

 貴重な甘味をここまで出してもらって申し訳ない気持ちでいっぱいになるが、せっかく用意してもらったのに飲まない方が申し訳ない。

 それに、これを飲まなければシスルの花茶の匂いで吐きそうになる。

「ありがとう――その、僕すごく甘えさせてもらってるよね。でも、お金とか……なくて」

 おずおずと言うと、パージはにかっと笑った。

「お前が倒れた日、魔獣を大量に処理しただろ?あれで十分お前の飯代にはなってるし、魔石もかなり取れたからな。気にするな」

 ますます異世界の仕組みに驚いたが、アーノンがいないことに気が付いた。

「父さんは仕事だ。今日は狩りじゃなく、炭焼き小屋のほうだな」

 シゲルの視線で察したのか、パージが言った。

「狩りに出ないときは炭焼きをするの?」

「ああ。大森林の木でできた炭は質がいいって王国の貴族に人気でな。高く売れるからこの村の名産でもある」

 所謂副業というやつだろうか。ハンターだけでは食えないのかと心配したが、違うらしい。

「あいつら放っておくとすぐに人里を侵食しようとしやがるからな。切った木の処分も仕事なんだ」

 なるほどと、シゲルが納得していると、家の扉を叩く音が聞こえた。

 尋ねてきたのはエイクだった。

え?錬金術師…?

魔法使いじゃないの?

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