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最強魔法使いは異世界から帰りたい(リライト版)  作者: やまだ ごんた


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9.

「僕……僕なんでここにいるかわからない」

「うん」

「気がついたらここにいて……みちるのところに戻りたいのに……でも、どうやったらいいかわかんなくて……」

「そうか」

「帰りたい――帰りたいんだよ、僕は……」

 パージに肩を抱かれながら、シゲルは言葉を詰まらせつつ、言葉にならない言葉を垂れ流していた。

 パージの服が濡れていくが、パージは気にせずにシゲルの肩を抱いていた。

「怖いなら、無理に帰らなくてもいいんじゃないのか?その、ミチル?って人が大事なのはわかるけどさ。あんなたらハンターなんかの修行をしなくても魔導士として十分やっていける」

 パージの優しい声に、やっとシゲルは自分が逃げていることに気がついた。

「だめ……だよ。僕がいなくなったら、みちるは1人になっちゃうじゃない――子供、どうすんだよ」

 シゲルの肩を抱くパージの指に、少しだけ力が入ったような気がする。

「オスカーさんの言う通り、アベル王子のとこに行かないと……元の世界に戻らないと」

 この世界に来て、はじめて自分の意思で決めた事だった。

 しっかりと顔を上げて、正面からパージの顔を見つめる。

「怖いからって、大事な人を見捨てることはできない」

 自分に言い聞かせるように、シゲルが言うと、パージは唇を少しだけ緩めて頷いた。

「なら、俺たちがお前を守ろう」

 いつの間にか、入り口に立っていたアーノンが言った。

「あんたが逃げると言っても俺は責めない。進むと言うなら俺はお前を助けるよ」

 パージが言うと、アーノンもベッドに腰を下ろし、パージの反対側から、シゲルの背中を抱く。

「お前は俺とエイクを救ってくれた。命には命で返すのが俺達だ。――だが、強制じゃない。お前の選択を俺達は尊重する――だから、気負わなくていい」

 アーノンの言葉に、やっと止まりかけていた涙がまた溢れ出した。

 1人じゃない。

 シゲルの胸に、温かい感情が広がる。

 やらなきゃいけない。やるしかないんだ。

 アーノンとパージの暖かい手に、シゲルは思った。

 

『大丈夫。君ならやれる』

 

 シゲルの耳に、あの声が聞こえた気がした。


 

 翌朝、起きると鏡を見なくてもわかるほど瞼が重たかった。

「すごい顔だな」

 様子を見に来たパージが少しだけ馬鹿にしたように笑ったが、嫌な気はしない。

「起きれるか?これを飲め。シスルの花茶だ。魔力の回復にいい」

 体を起こすのを手伝いながら、パージはシゲルにコップを渡した。

「匂いは嗅ぐな。一気に飲め」

 パージの言うことは正しかった。

 口に含むとシナモンを煮詰めたような味が広がる。漢方薬でもここまでまずくはない。

 飲むのをやめたかったが、パージの目が問答無用で飲めと言っているように見えて、シゲルは覚悟を決めて息を止めて一気に飲んだ。

「よくがんばった」

 パージはそう言うと、もう一つコップを手渡してきた。昨日の蜂蜜水だった。

「ご褒美ってか――ありがたく飲むけども」

 蜂蜜水は冷たくて甘い。

 同じように一息で飲むと、口の中の嫌な味が消えた。

 シゲルの表情が和らいだのを確認すると、パージはコップを持って部屋を出て行った。

 シゲルはその背中を見ながら、昨日のことを思い出した。

 あの声は確かに聞こえた。そして、自分を呼んだのもあの声で間違いないんだろう。

 何なんだ――

 だが、シゲルは昨日決めた。必ず元の世界――みちるの元に帰るのだと。

 シゲルはゆっくりとベッドから起きると、まだ少しふらつく頭を押さえてパージの後を追いかけるように部屋を出た。


 台所にはパージだけでなく、アーノンもいた。

「起きたのか。俺は風呂に行くが、お前も行くか?」

 アーノンは体のあちこちに、返り血らしいものを浴びていて、鉄臭い。

「もう狩りに出てたんですか?」

「ああ。今日はアクィラを狩ってきてくれと頼まれたんでな――あいつらは夜明け前にしか活動しないから厄介だ」

 アーノンが首を回しながら、パージが淹れた茶を飲む。

 まるで仕事帰りのお父さんだ――と、思ってなんとなく毒気を抜かれた。

 どの世界でも変わらないんだな。 

「お風呂、行きたいです」

 シゲルは、3日も寝てた自分の体が少し臭いことが気になったので、頷いた。

 せっかく覚悟を決めて部屋を出たのに、出鼻を挫かれた気分だったが、それでも風呂は有難い。


 パージに言われて裏庭に出ると、先日のオルニトミムスが2頭繋がれていた。

「もしかして、これで行くの?」

 シゲルが不安げに尋ねると、パージは「お前はまだ歩くのもきついだろ」と首を傾げた。

「それに、帰りに粉を挽きに行きたいから草竜で行く――乗せてやるよ」

「草竜――?」

「草竜も知らないのか?」

 パージの目が呆れているのがわかる。

「僕の世界には恐竜なんていない――いや、大昔にいたけど絶滅してるからね。僕達の時代では基本的に騎乗生物って言ったら馬とか哺乳類系だよ」

「ふーん」

 どうでもいい、というようなパージの返事のあと、シゲルの体はパージによって抱き上げられて草竜の上に積み上げられた。

 硬い革の鞍と、草竜の冷たい皮膚が触れると、シゲルはわかりやすく狼狽えていた。

 その様子を、アーノンが優しい目つきで見つめていた。

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