プロローグ
ご無沙汰しております
こちらで転生させてください
大森林は相変わらず魔力の圧力が半端ない。
シゲルは、腰に下げたナイフを握りしめた。
今日もこれを使わないでいられますように。
そんな甘い考えは捨てろ、と師匠のアーノンや兄弟子のパージはいつも言う。
わかってるけど……無理に決まってるじゃないか。
「いたぞ、シゲル――わかってるな?」
パージが小声でシゲルを睨む。
「わ……わかってるよ」
シゲルが小さく頷くと、パージは腰に下げていた剣をゆっくりと抜く。
剣に魔力を通すと、剣から小さな稲妻が走り、木の陰にいた七面鳥のような魔獣を狙い撃ちした。
「外した――シゲル!そっちに」
パージの言葉は間に合わなかった。
攻撃力は低いが動きが素早いガーグは、雷に驚いてシゲルの目の前に躍り出ていた。
シゲルは咄嗟に防御の魔法陣を展開したが、ガーグの突進にこれでもかと巻き込まれて、ガーグもろとも地面を転がるように進み、灌木の茂みに突っ込んでようやく止まった。
「なんでナイフを使わないんだ」
パージが苛立たしげに言うと、シゲルは気を失ったガーグを抱えたまましょぼんとしている。
「今日はお前がこいつを絞めろ」
「え――無理だよぉ」
シゲルが情けなく声を上げると、パージは舌打ちした。
「お前は早くあの奥に行きたいんじゃないのかよ」
シゲルからガーグをひったくると、パージは素早くその首を切り落とした。
断末魔をあげる間もなく、ガーグが息絶えたのは見なくてもわかる。
生暖かいガーグの血が地面に浸み込み切れずにシゲルの足元に流れてくると、シゲルは「ひゃっ」と小さく叫んで立ち上がった。
――ったく。
パージは呆れながら手近な木の枝に、ガーグの体を吊るすと結界のスクロールを取り出した。
血抜きの間、他の魔獣に得物を掻っ攫われてはたまったもんじゃない。
ガーグごときに結界のスクロールを使うのは割に合わないのだが、今は別だ。
シゲルがいくらでも作ってくれる。
だからパージは、シゲルがガーグを絞められなくても、狩りがいつまでも下手くそでも、我慢してやっているのだ。
だが、我慢にも限界というものはやって来る。
「お前な、本当にいい加減にしろよ?せめて自分の身を守る程度でいいから戦えるようになれよ」
パージの言うことはもっともだ。
そんなことシゲルにだってよくわかっている。
だが、物事には無茶というものもあるのだ。
なにせ、シゲル――いや、中津滋はこの世界の人間ではなく、所謂異世界人なのだから。
まったり続けていく予定です
よろしくお願いします




