寝言
俺、グリーンは自慢ではないが、情報通だ。俺はどんな手を使ってでも情報を仕入れる。今回はどのようにして俺がパーティーメンバーの情報を仕入れていたかを告白する。
俺にとって一番重要な情報はパーティーメンバーの動向だ。特にリーダーのユーキの動向は重要だ。何と言ってもユーキは秘密主義だ。彼は必要最小限の情報しか他のメンバーと共有しない。
我々、勇者パーティーは仕事を受注する時、リーダーのユーキのみが交渉を行う仕組みを採用している。他のメンバーはユーキが仕事を取ってくるのを待つ。それまでは各自、自由行動だ。パーティーとして仕事が回ってくる間、各々で必要な訓練や仕事などをする。我々のパーティーはこのやり方で回っている。
なぜ、このような運営方式になったかのか? それは、ユーキがパーティーに関わる事に対して全責任を取ると覚悟しているからだ。これはミッションが失敗した時に、ユーキが他のメンバーを守るためだ。もし他のメンバーが契約の詳しい内容を知らなければ、発注先は他のメンバーへ責任を追求することはできない。別に、彼らは契約にサインした訳ではないから責任を問おうとしても無理である。それに知らない事は守れないと言い訳もできる。そうやってユーキが他のメンバーを守る仕組みを我々パーティーはとっていた。そして、もしミッションが失敗したら、すべてユーキ一人の責任。成功したら、ユーキを含め皆のおかげだ。
報酬はユーキが5割を取る。そして、残りの5人で1割づつ貰う。何か、ユーキの取り分がやたらに多いのでと思う人もいるが…… ホリーによれば、実際、そうではないらしい。俺はそうは思わないが。ホリーによればユーキの取り分の8割はパーティーの維持、管理費だそうだ。だから彼自身の取り分は他のメンバーと変わらない。俺を含めて他のメンバーが拠点にいる時に家賃を払わないし、遠征中の食事などの費用は全て、ユーキが負担することになっている。
ここで、俺が一番疑っているのは報酬額だ。リーダーのユーキのみが仕事の交渉をするので、他のメンバーは実際にいくら貰えるのか知らない。一応、ユーキは自己申告するが、それが本当とは限らない、と俺は考えている。
それに契約内容もよくわからない。俺はユーキが内容を全部、我々に提示しているとは信じてない。俺がユーキに一度「契約書を見せろ」と迫ったことがあるが、ユーキは俺達が知らない方がいい事もある、などとお茶を濁して逃げた。俺は冒険者の裏事情はよく知っている。冒険者は時として、やばい仕事をすることもあるし、発注者の秘密を守る義務が生じる場合もある。世の中、全て綺麗事ではすまない。だから俺はやばくなったらさっさと逃亡するつもりだから、ユーキがどのような契約を結んだかを知る必要があった。
でだ、俺はユーキからどのように情報を聞き出すかを思案した。真っ向からユーキに聞いても、絶対に奴は話さないのは明らかだ。では、どうするばいいのか? 俺はここでひらめいた。夜間、奴が寝ている時、上手く誘導して奴に寝言で喋らせればいいと。で、いつ実行するのか? 街にいる時はまず無理か。
我々、勇者パーティはだいたい年の3分の1は街に滞在している。我々が街に滞在している時はユーキが所有している家に滞在している。この家が我々勇者パーティーの拠点だ。この家はかなりでかい。豪邸といっても過言ではない。玄関を入ると大きな広間がある。広間の奥には階段がある。広間を入って右側には居間がある。ここは会議室を兼ねている。我々はそこでパーティーの重要事項の会議をしている。左側にはキッチンとダイニングがある。それと、浴場なども一階にある。
二階には寝室が8つある。だから、我々には一人づつ個室があてがわれている。これが一番の問題だ。寝る時は皆、ここで寝る。そして、我々は一旦、自分の部屋に入ればプライバシーが完全に確保される。俺には他のメンバーの部屋に勝手に入る事はできない。そんなことをして見つかれば、俺は確実にボコられる。何といっても俺が他のメンバーの部屋に勝ってに入る理由がないからな。だから、俺がユーキの寝言を聞く方法は街で滞在している限り、あり得ない。
だが、遠征中は別だ。我々にはテントを人数分、持って行く余裕はない。持っていける荷物の量は限られる。贅沢など言っていられないのだ。だから、皆で同じテントで一緒に寝る。俺はユーキが寝ている時に近づいても、それほど不自然ではない。俺はパーティーが遠征へ出るのを待った。
遠征中、夜間は交代で見張りをする。俺とアイシャは各二時間。他のメンバーは各一時間だ。俺とアイシャは後方支援要員だから見張りの時間が長い。見張りの順番は、ホリー、エリーシャ、俺、アイシャ、スタン、ユーキの順番だ。ホリーが一番始めでユーキが一番終わりなのは理由がある。俺とアイシャが見張りの時、何か異常事態が発生した場合はホリーかユーキのどちらかを起こすことになっている。特にユーキが最優先で起こされる。だから、この2人にはなるべく連続して寝る時間を設けている。
これは俺にとって好都合だ。俺がユーキが寝ている時に近づいても不自然ではないからな。もしユーキが寝言を言っている時に目が覚めても簡単に言い訳ができる。
それに見張りをそう真剣にする必要はない。我々のパーティーにはロバがいる。ロバには普通の人間よりも危険を察知する能力が圧倒的に高い。戦闘職ではない俺やアイシャは見張りの時、ロバの動向を見ていればいい。ロバが騒ぎ出したら警戒を強める。そして必要に応じてユーキかホリーを起こせばいい。だから、見張りは適当にしてても問題はない。その間、ユーキに近づいてユーキの寝言を誘導して情報を聞き出せばいい。まさに、パーフェクトプランだ。
遠征中、俺は自分が見張り番の時、ユーキに近づいた。そして、俺はユーキの耳元へ口を近づけるとユーキに囁いた。隣で寝ているスタンに聞こえないように小さな声で。
「ユーキ、今回のミッション、誰から仕事を受注したんだい?」
ユーキは口をもぐもぐさせた。何か言いたげな様子だったが、何も話さなかった。俺はもう一回、同じ質問をした。
「今回の仕事はメディーナ子爵からの依頼だ……」
ユーキは口をもぐもぐさせながら答えた。ユーキは仕事内容を詳細に説明した。それに子爵の人柄についても。悪徳領主だったら良かったのだが。前は、この方法を使って悪徳領主をユーキから聞き出す事ができた。その時、俺はサイドビジネスで使うリラックサの元になる植物の情報を得た。今回は何もなしかよ。残念だ。
だが、俺はここで更に情報を聞き出した。他にもユーキから聞きたい事はある。最近、ユーキが買った金庫の暗証番号だ。
「ユーキ、お前の部屋に金庫が隠してあるよな。暗証番号を教えてちょうだい」
「暗証番号? あぁあ……」
ユーキは少し抵抗しているみたいだ。なので、俺はやさしく囁いた。まるで女性が懇願しているように。
「ねぇ、ユーキ、必要なの。お・ね・が・い。金庫の暗証番号を教えてちょうだい」
「暗証番号は……左に三週回して31。右に二週回して9。左に一週回して35。そして最後に右に回して18だ」
「ありがとう、ユーキ。しっかりと休んでね」
パーティーが遠征から街に戻ると早速、ユーキがいない時に俺はユーキの部屋に侵入した。俺はユーキが隠している金庫に近づくと金庫に細工がないか確かめた。例えば、髪の毛を金庫の扉に貼り付けて、金庫が開けられたら髪の毛が取れる。これによって、ユーキには誰かが許可なく開けたことがわかる。ユーキは強いだけではなく、かなり賢い奴だ。金庫の番号が破られる可能性を考慮しているかもしれない。俺はざっと金庫の細工がないか調べたが、何もなかった。俺はさっさと金庫を開けた。
金庫の中には大した物は入っていなかった。帳簿とパーティーの運用資金だ。俺は帳簿を見ると、ホリーが言っている事が正しいことがわかった。ユーキは律儀にも自分の取り分を他のメンバーと一緒にしていた。ただ、俺にとってはそんな事はどうでもよかった。そもそも帳簿の数字が正しいとは限らないからな。ユーキが俺達から金をちょろまかしたのがバレた時に、証拠として提示するつもりで作ったかもしれない。
俺はパーティーの運用資金から少しだけ金を失敬することにした。目の前の大金を指を加えて見ているだけで済ます気はないからな。だた、あまり多く盗むとすぐにバレる。パット見、違和感がない程度の額で自重した。俺は横領がバレないように帳簿を慎重に改ざんした。
俺はユーキだけでなく、ホリーからも情報を聞き出した。ホリーは貴族の出だ。ホリーの家の対抗派閥の貴族から金を貰って、ホリーからも色々と家庭内事情を聞き出した。ここで俺の見張りの順番が役に立った。俺の見張りの順番は3番目だ。2番目のエリーシャの次で4番目のアイシャの前だ。俺は自分の見張り番が終わったら、アイシャを起こしにホリーを始めとする女性が使っているテントに入ることができる。
俺がアイシャを起こしに行く時間はホリーが床に着いてからだいたい3時間後だ。丁度、ホリーは夢の中で寝言が出やすい頃合いだ。俺はホリーが寝ているのを確認すると、そっとホリーの耳元で呟いた。
「ホリー、最近、お父さんと会ったかい?」
「……」
「風の噂で聞いたんだけど……君のお父さん、何か秘密裏でプロジェクトを立ち上げたそうではないか? 興味あるんだけど。知らない?」
ここで、ホリーはいきなり目を開けた。目が覚めたのか? 俺はホリーの視野に入らないように身を屈めた。そして、ゆっくりと後ずさった。だが、ホリーは周りの異変に気付いて辺りを見渡した。
「グリーン、お前ここで何してる?」
「ぁああ……アイシャを起こしに来ただけだよ。暗くて参るな、……ったく」
「お前、キモいんだよ。私の寝ている時に近づくな」
「近づくな、っと言われても。緊急事態になったら、ホリーを起こすこともあるかるな~。そんな事、言うなよ」
「緊急事態になったら、ユーキを起こせばいいだろう」
「いや、そう毎回毎回、ユーキを起こすと悪いし。奴も休息は必要だし」
「チェ!」
ホリーは舌を鳴らした。俺が言っている事は一理あるからな。俺はアイシャを起こすと床に着いた。やばかったぜ。たまにあるんだよな~。ホリーが急に起きる事が。
こうして、俺はサイドビジネスだけでなく、パーティー資金からの横領や仲間の情報を売りさばくことでも副収入を得ていた。もう一つわかった事は、仕事を遂行する上で、やばい情報はほとんどなかった。たまに、悪徳領主の情報を得るくらいだった。
ここで一旦、完了とします。
また、面白いアイディアが出てきたら、再開します。
その時は読んでやって下さい。




