異世界で最強スライムになった俺、勇者パーティーに追放されたら神にスカウトされた件。
目を覚ますと、俺は死んでいた。
いや、正確にはトラックに跳ね飛ばされ、スマホを握りしめたまま宙を舞っていたのを、今でもスローモーションで覚えている……。
あの時、俺の脳裏に浮かんだのは「積みゲーがまだ二十本残ってるんだが!?」というどうでもいい未練だけだった。
そして気がついたら――真っ白な空間の中に立っていた。
「ようこそ、転生希望者ナンバー五億三千二百七十二番」
声の主は、どこか疲れ切った顔をした女神だった。
金の髪を無造作にまとめ、書類の山を抱えている。明らかにブラック職場の顔だ。
「……お疲れ様です」
「わかる? 今期、異世界転生の申請多すぎてね……。もう人手が足りないの」
女神はため息をつき、机の上の書類をパラパラとめくった。
「えっと、あなた……“平凡な人生をやり直したい”って書いてあるけど、テンプレ的にチートつけていい?」
「そりゃもちろん!」
「よし、じゃあスライムで」
「は?」
次の瞬間、俺の視界がぐにゃりと歪んだ。
◆
目を開けると、そこは森の中。
体が……ぷるぷるしている!?
「おいおい、マジでスライムかよ!」
だが俺のステータスを確認してみると、ありえない数字が並んでいた。
――【種族:スライム・神格個体】
――【スキル:全ての存在を喰らう(∞)】
――【レベル上限:なし】
「お、おお……これ、バグってない?」
試しに近くのゴブリンを飲み込んでみた。
次の瞬間、ゴブリンが消え、俺の体に流れ込む感覚が――。
『ゴブリンのスキル《再生力強化》を取得しました』
……ヤバい。これはマジで無敵だ。
◆
一年後、俺は“神域級魔物”として名を馳せ、勇者パーティーに討伐された。
いや、正確には討伐されるフリをした。
なぜなら、勇者たちは俺の魔力の一%も削れなかったからだ。
「お前みたいな化け物、仲間にできるか!」
「勇者よ、君の剣、逆に危ないよ?」
結局、俺は“追放”という名目で森に戻された。
その夜――天から声が降ってきた。
『――よくやった、我が後継者よ』
空が裂け、あの女神が降臨した。
「え、なんで!?」
「だって、あなた強すぎるんだもん。人間界に置いておけない。神界で働いてくれない?」
「え、それ転職エンド!?」
女神は微笑むと、俺の体に金色の光を注いだ。
『あなたを新たな“創造神スライム”として任命します』
「まって、それ職種スライムじゃなくて神様じゃん!」
――こうして、俺は神になった。
異世界最強スライムから神格スライムへ。
今では、俺の作る世界に“新たな勇者”たちが転生してくる。
彼らが祈るたび、俺は笑う。
「いいぞ、人間。俺を倒したければ――もっと強くなれ!」
空に響く、神の笑い声。
その声を聞いた者は皆、こう呼ぶのだ。
――“スライムの神”と。
【完】